旅先恋愛~一夜の秘め事~
休みが明け、麗との会話を念頭に置きつつ、戦々恐々とした心持ちで出勤した。


「よお、綿貫。久しぶり、休暇はどうだった?」


同期の吉住(よしずみ)くんに、自席に向かう途中声をかけられた。


「休暇をありがとう。京都に行ってゆっくりしてきたよ」


「へえ、いいなあ。今日からまたよろしくな」


うなずき、上司にも休暇明けの挨拶をすませ、仕事に取り掛かる。

休暇中、仕事を引き受けてくれていた後輩から引き継ぎを受ける。

目の前の仕事をこなしているとあっという間に時間が過ぎ、一日が終わった。


ロッカールームに向かい、着替えを済ませる。

バッグの中のスマートフォンを確認したが、暁さんからの着信はなかった。

逃げたのは自分なのに、自分勝手な心に辟易する。

小さく息を吐き、ロッカールームを後にした。



それから、半月ほどがあっという間に過ぎた。

いつの間にやら桃の節句も過ぎ、気温は少しずつ上昇し、街中で春の装いをちらほらと目にするようになった。



暁さんから連絡は一度もない。

やはり本気ではなかったのだろう。

わかっているのに、自分から拒否したのに、交わした言葉や温もり、なによりも肌を重ねた感触を忘れられずにいる。


あの日の夢を、もう何度見ただろう。

目覚める度に虚しさと切なさで涙が流れた。
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