旅先恋愛~一夜の秘め事~
麗には幾度となく連絡をとるよう言われたが、二の足を踏んでしまう。
決断できない自分にうんざりしながら、毎日を過ごしていた。
「綿貫、今週の金曜日の午後って空いているか?」
火曜日の朝、出勤してすぐに吉住くんに尋ねられた。
彼と私は同じ営業三課に属している。
「午前中は来客があるけれど、午後は空いてるわ」
「よかった。じゃあ午後からコンプライアンス研修入れていいか?」
「うん、大丈夫。場所はいつもの会議室?」
「いや、今回は椿森ホールディングスの本社ビルなんだ」
聞こえた社名に一瞬、耳を疑った。
「今回から本社と合同受講に変更になったんだ。一度に大勢の社員が受講できるように本社の研修室を使用するらしい」
同期の説明に、鼓動が速いリズムを刻みだす。
彼に、会いたい。
でも会うのが怖い。
「じゃあ、一緒に申し込んでおくから」
ぎこちなくうなずき礼を告げる私を、訝しみもせず同期は去っていった。
『会ってきなさいよ』
その夜、研修の件を電話で告げると麗はあっけらかんと言い放った。
『堂々と社内を歩けるんだし、なにも問題ないでしょ』
「まだ京都で仕事中かもしれないし、おいそれと会えないわ」
『なんでそんなに頑ななの? せっかくのチャンスでしょ』
「……一夜の出来事だと割り切って、もう忘れているかもしれないもの」
『そうやって無理やり物分かりのいい振りをするの、唯花の悪い癖よ。後悔だけはしないようにね』
真剣な口調で私を諭したハトコの声がいつまでも耳に残った。
決断できない自分にうんざりしながら、毎日を過ごしていた。
「綿貫、今週の金曜日の午後って空いているか?」
火曜日の朝、出勤してすぐに吉住くんに尋ねられた。
彼と私は同じ営業三課に属している。
「午前中は来客があるけれど、午後は空いてるわ」
「よかった。じゃあ午後からコンプライアンス研修入れていいか?」
「うん、大丈夫。場所はいつもの会議室?」
「いや、今回は椿森ホールディングスの本社ビルなんだ」
聞こえた社名に一瞬、耳を疑った。
「今回から本社と合同受講に変更になったんだ。一度に大勢の社員が受講できるように本社の研修室を使用するらしい」
同期の説明に、鼓動が速いリズムを刻みだす。
彼に、会いたい。
でも会うのが怖い。
「じゃあ、一緒に申し込んでおくから」
ぎこちなくうなずき礼を告げる私を、訝しみもせず同期は去っていった。
『会ってきなさいよ』
その夜、研修の件を電話で告げると麗はあっけらかんと言い放った。
『堂々と社内を歩けるんだし、なにも問題ないでしょ』
「まだ京都で仕事中かもしれないし、おいそれと会えないわ」
『なんでそんなに頑ななの? せっかくのチャンスでしょ』
「……一夜の出来事だと割り切って、もう忘れているかもしれないもの」
『そうやって無理やり物分かりのいい振りをするの、唯花の悪い癖よ。後悔だけはしないようにね』
真剣な口調で私を諭したハトコの声がいつまでも耳に残った。