旅先恋愛~一夜の秘め事~
「入って」


眩い光を放つ真っ白な大理石の玄関は広々としていて、すぐ脇にはシューズインクローゼットらしき扉があった。

室内に入るよう促され、靴を脱ぐ。


「……お邪魔します」


「どうぞ」


彼の後に続き、長い廊下を歩く。

案内されたリビングには大きな窓があり、ビーズを散りばめたように輝く東京の夜景が一望できた。


「すごい……」

 
感嘆の声を漏らし、窓際に向かった私の背後に彼がゆっくりと歩み寄る。


「気に入った?」


「はい、とても綺麗です」


「じゃあここで暮らすか?」


「え……?」


聞き間違いかと振り返った途端、唇が塞がれた。

驚いて体を退こうとすると、後頭部に大きな手が回り引き寄せられる。

角度を変えて何度も口づけられ、息が上がっていく。


「……ずっと、会いたかった……」


掠れた声に胸が詰まった。

抱き込まれ、私の首筋に彼の唇が触れる。

弱い部分を甘噛みされ、背筋に痺れがはしる。


「……唯花は俺に会いたくなかったか?」


至近距離から見つめられ、こみ上げる想いに泣きたくなった。

考えなければいけない出来事はたくさんある。

暁さんの本心もまだ聞けていない。

けれど彼の真っ直ぐな問いかけに決意が揺らぐ。


「お前は俺のものだ。誰にも渡さない」


傲慢とも思える口調で言い切られ、心が震えた。

胸がいっぱいになって声が出ない。
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