旅先恋愛~一夜の秘め事~
休暇初日、昼過ぎに京都に到着した私は、駅ビル内の店舗で昼食をとっていた。

ガイドブックをバッグから取り出し、合流するまで散策する場所を考える。

スマートフォンを手に検索をしていると、ハトコから電話がかかってきた。


「麗、どうしたの?」


店員にことわって席を立ち、出入り口付近の人気のない場所で小声で応答する。

平日の木曜日、午後一時半の今、麗はまだ研修中のはずだ。


『唯花、助けて! 私、このままじゃ強引に結婚させられちゃう!』


「えっ?」


『今、どこ? そっちに向かうわ!』


「ちょっ、ちょっと麗? なにがあったの? 研修は?」


状況がわからず矢継ぎ早に質問するが、慌てているのかハトコの返答は要領を得ない。

心配しつつも私の現在地を伝える。

会ってから説明すると言われ、急ぎ会計を済ませて店外に出た。

しばらくしてロングチェスターコートを着込んだ麗が荒い息を吐きつつ、やってきた。

身長が百七十センチ近い彼女にとてもよく似合っている。

顎下で切り揃えられた髪は若干乱れ、手には小ぶりなキャリーバッグが握られていた。


「麗、本当にどうしたの? 研修は大丈夫なの?」


少し釣り目がちな二重の私とは対照的な丸い大きな目には涙が滲んでいる。

近くのカフェに入り、テーブル席に腰を下ろした途端、ハトコは眉を下げて口を開いた。
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