旅先恋愛~一夜の秘め事~
カーテンをサッと開き、朝の光を浴びる。

スマートフォンの電源を入れるとおびただしい数の着信通知とメッセージが届いていた。

そのなかに堤さんのものがあった。

会社に自身の携帯番号を届け出ているので、不思議はない。


【今日は急ぎの案件はないので無理せず、大事をとって休んでください】


ほかにも私の体を労わるメッセージが幾つかあり、鼻の奥がツンとした。

私の指導のために自身のスケジュールを調整してくれている堤さんは本当に優しく、素敵な女性だ。

暁さんが惹かれるのも当然だ。

こみ上げる涙をグッと堪えて、会社に電話をした。

応対してくれた秘書室長にも心配され、改めて休むよう指示された。

正直、まだ体が怠いので甘えて休ませてもらうことにした。

そして病院に問い合わせて、予約時間を午後一番に変更した。


「おめでとうございます、妊娠されていますよ」


本社近くにある病院の産婦人科医の祝福に、涙が滲んだ。

パートナーについて説明できない私から無理に聞き出そうとはせず、一緒に頑張りましょうと穏やかに言ってくれた。

貧血についても相談ができ、対応もとても親切で、この病院を受診してよかったと思った。


病院を出て、改めてまだ大きくなっていない腹部に両手を当てる。

妊娠が確定したせいか、この命を守りたいという覚悟ができた。
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