冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった
「一思いにどうか、一撃で殺してください」
くすんだ灰色の髪に、黒い瞳。
生気のない、全てを諦めたような瞳の少女。
彼女の名前は、オルテンス・サーフェーズ。
今年十五歳になるサーフェーズ王国の第一王女という立場である。とはいえ、国王が侍女に手を付けた結果産まれた彼女は疎まれていた。加えて、両親とは似つかない見た目だったというのも、彼女が疎まれていた理由であろう。
祖先の血が強く出てしまったのか、その見た目は華やかではない。
加えて側妃として受け入れられた母親は、彼女が幼い頃に亡くなってしまっている。
側妃がなくなる前よりも、ずっと彼女の人生は暗雲が立ち込めていた。もとより良い対応はされていなかった少女である。そして母親という存在が居なくなり、彼女はたった一人ぼっちになった。
国王は、自分にも母親にも似なかったオルテンスのことを疎んでいた。どうでもいいものと思っていた。
――そして異母兄妹たちは、彼女のことを嫌っていた。
仮にも王族の血を引く王女だとういうのにも関わらず、彼女は王族として生きてこなかった。
周りから疎まれ、暴力を振られ、苦しい思いを散々させられてきた。
そんな人生が彼女にとっては当たり前だった。
王女として華やかな舞台に立つこともなく、ただひっそりと……王城の中で彼女は過ごしていた。
けれど、そんな彼女が今、他国に居る。
それはほんの数か月前の、突然の父親からの呼び出しがあった。
父親からそんな風に呼ばれることなどなかった彼女は、驚きと同時に、愚かにも少しだけ期待した。
父親が自分を見てくれるのではないかという愚かな期待。
けれど、それは当然のように裏切られる。
父親が望んだのは、優しく美しいと噂される妹姫の代わりに『冷酷王』と呼ばれる大国の王に花嫁候補として向かう事だった。
一つの国をまたいだ先に存在する、大国。
メスタトワ王国。
その国の王は冷酷なる王と噂されていた。何人もの花嫁が候補として送られ、そして、冷酷なる王に拒否されていっていたのだという。噂では気に入らない相手はすぐに切り捨てるようなそういう人なのだとか。実際に事実として、王位継承権争いをしていた肉親を殺しての王位だった。そして逆らうもののことをすぐに殺してしまうのだと言う。
そんな王への花嫁候補の一人として、美しき姫として有名な妹姫は求められた。そしてそんな冷酷な王には嫁げないなどと拒否をした。
――我が国の姫を求めているのならばアレが行けばいいじゃない。アレならば殺されたとしても問題ないもの。
そう、妹姫は言い捨てた。確かに大国からの手紙には、名前までは記載はなかった。でも文面からして、妹姫が求められていた。優しく美しい妹姫ならば……と期待されていたのだろう。そもそもオルテンスは表に出ない姫なので、大国はオルテンスのことなど把握もしていないことだろう。だからこそ、求められているのは確実に妹姫だった。
しかしここぞとばかりに、今まで姫としての扱いなど全くされていないにも関わらず……オルテンスは姫として嫁ぐことを求められた。
侍女などもほとんどついていない。
最低限の者たちと共に、大国へと向かう。
「――というわけで、私は陛下の求めている姫ではありません。痛いのは嫌いなので、殺すなら一思いにどうか、一撃で殺してください!」
そして、現在、オルテンスはヴェールを被った状態で、大国の王――デュドナに謁見していた。
ヴェールを被り、髪の色を隠していたのは父親と妹姫の指示である。そのヴェールを取り、自分は噂されている妹姫ではないのだと説明をしたオルテンスは、殺すのならば一撃で殺してほしいと嘆願し、跪いた。
オルテンスはこのまま殺されるのだろうと思っている。敵対するものをすぐに切り捨てると言われている存在ならば、オルテンスのような矮小な存在のことなどすぐに殺すだろうと。
ならば、殺されるのならば痛くしないでほしいと思っている。オルテンスは今まで散々痛めつけられたりしながら生きていて、痛みはなれている。でも痛いのは好きじゃない。だから、殺されるならすぐに殺してほしいと願っていた。
「……頭をあげろ」
跪き、頭を下げたオルテンスにそんな声がかかる。そしてオルテンスが顔をあげれば、ぽかんとした顔の――メスタトワ王国の者たちの顔が視界に映るのだった。
生気のない、全てを諦めたような瞳の少女。
彼女の名前は、オルテンス・サーフェーズ。
今年十五歳になるサーフェーズ王国の第一王女という立場である。とはいえ、国王が侍女に手を付けた結果産まれた彼女は疎まれていた。加えて、両親とは似つかない見た目だったというのも、彼女が疎まれていた理由であろう。
祖先の血が強く出てしまったのか、その見た目は華やかではない。
加えて側妃として受け入れられた母親は、彼女が幼い頃に亡くなってしまっている。
側妃がなくなる前よりも、ずっと彼女の人生は暗雲が立ち込めていた。もとより良い対応はされていなかった少女である。そして母親という存在が居なくなり、彼女はたった一人ぼっちになった。
国王は、自分にも母親にも似なかったオルテンスのことを疎んでいた。どうでもいいものと思っていた。
――そして異母兄妹たちは、彼女のことを嫌っていた。
仮にも王族の血を引く王女だとういうのにも関わらず、彼女は王族として生きてこなかった。
周りから疎まれ、暴力を振られ、苦しい思いを散々させられてきた。
そんな人生が彼女にとっては当たり前だった。
王女として華やかな舞台に立つこともなく、ただひっそりと……王城の中で彼女は過ごしていた。
けれど、そんな彼女が今、他国に居る。
それはほんの数か月前の、突然の父親からの呼び出しがあった。
父親からそんな風に呼ばれることなどなかった彼女は、驚きと同時に、愚かにも少しだけ期待した。
父親が自分を見てくれるのではないかという愚かな期待。
けれど、それは当然のように裏切られる。
父親が望んだのは、優しく美しいと噂される妹姫の代わりに『冷酷王』と呼ばれる大国の王に花嫁候補として向かう事だった。
一つの国をまたいだ先に存在する、大国。
メスタトワ王国。
その国の王は冷酷なる王と噂されていた。何人もの花嫁が候補として送られ、そして、冷酷なる王に拒否されていっていたのだという。噂では気に入らない相手はすぐに切り捨てるようなそういう人なのだとか。実際に事実として、王位継承権争いをしていた肉親を殺しての王位だった。そして逆らうもののことをすぐに殺してしまうのだと言う。
そんな王への花嫁候補の一人として、美しき姫として有名な妹姫は求められた。そしてそんな冷酷な王には嫁げないなどと拒否をした。
――我が国の姫を求めているのならばアレが行けばいいじゃない。アレならば殺されたとしても問題ないもの。
そう、妹姫は言い捨てた。確かに大国からの手紙には、名前までは記載はなかった。でも文面からして、妹姫が求められていた。優しく美しい妹姫ならば……と期待されていたのだろう。そもそもオルテンスは表に出ない姫なので、大国はオルテンスのことなど把握もしていないことだろう。だからこそ、求められているのは確実に妹姫だった。
しかしここぞとばかりに、今まで姫としての扱いなど全くされていないにも関わらず……オルテンスは姫として嫁ぐことを求められた。
侍女などもほとんどついていない。
最低限の者たちと共に、大国へと向かう。
「――というわけで、私は陛下の求めている姫ではありません。痛いのは嫌いなので、殺すなら一思いにどうか、一撃で殺してください!」
そして、現在、オルテンスはヴェールを被った状態で、大国の王――デュドナに謁見していた。
ヴェールを被り、髪の色を隠していたのは父親と妹姫の指示である。そのヴェールを取り、自分は噂されている妹姫ではないのだと説明をしたオルテンスは、殺すのならば一撃で殺してほしいと嘆願し、跪いた。
オルテンスはこのまま殺されるのだろうと思っている。敵対するものをすぐに切り捨てると言われている存在ならば、オルテンスのような矮小な存在のことなどすぐに殺すだろうと。
ならば、殺されるのならば痛くしないでほしいと思っている。オルテンスは今まで散々痛めつけられたりしながら生きていて、痛みはなれている。でも痛いのは好きじゃない。だから、殺されるならすぐに殺してほしいと願っていた。
「……頭をあげろ」
跪き、頭を下げたオルテンスにそんな声がかかる。そしてオルテンスが顔をあげれば、ぽかんとした顔の――メスタトワ王国の者たちの顔が視界に映るのだった。
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