冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「あんまり、優しくし過ぎないでほしいの」

 さて、オルテンスを縛っている魔力についてのことが少し解明した。その内容にミオラたちは益々過保護になっているわけだが、オルテンスに関しては自分のことだというのに普段通りだ。


「これ、面白い」


 オルテンスは本を読んでいる。


 ミオラたちから勧められた本だが、その本にはこの国の歴史などの必要な情報が含まれている。
 そこにはメスタトワ王国の者たちの思惑がある。オルテンスをこの国へと留め、もし可能であるのならばオルテンスをデュドナの妃にしたいと思っているので、そのための教育も組み込まれていたりもする。
 ちなみにちゃんとデュドナには許可をとってある。最低限の貴族としての教育もされていないだけなので、その教育がされているのだ。もちろん、王族に嫁ぐものだけが知ることも多くあるので、そのあたりは正式に妃に決まることがなければその教育もされることだろう。



 この教育だが、オルテンスに遊びとして組み込まれたりしている。表立って教育とはせず、日常の中で組み込まれている。
 オルテンスは王族の姫であるが、そういう教育がされておらず、学びの場というのが正直言ってなかった。だからこそオルテンスはそういう学びの場を与えられて喜んでいた。
 なにかを学ぶということは、新しい発見があるということである。
 オルテンスは、そういう学びの機会がなかったので面白くて仕方がない。
 今まで学びを与えられてこなかったからこその餓えと言えるだろうか。そういう教育に対する餓えがオルテンスにはあった。




 寧ろオルテンスが勉強に熱中しすぎて睡眠を怠ることもあったので、それに関してはミオラたちに「時間は幾らでもあるので寝ましょう」と言われて眠りについた。



 オルテンスは正直、自分の命は国の物と思っていて、この国に居ていいと言われても本当にいていいのかと悩んでいるので、そんな風に時間が幾らでもあると言われることがとても不思議だった。
 自分はそのうちこの場所からいなくなり、ミオラたちとも会わなくなると考えている。なのでどうしてこんなに優しくしてくれるのだろうかと思ってしまう。
 自分のことを大切だと言われても、どうして私なんかにそんなことを言うのだろうかとさえ考えている。



「オルテンス様は本当に可愛いですね」
「私たちはオルテンス様のことが大好きですよ」
「オルテンス様が笑ってくれるととても嬉しいです」



 メスタトワ王国の王城の人々は、ミオラを含めて皆がそう言って声をかけてくる。真っ直ぐに真正面からそんなことを言ってくることが不思議で、やっぱり夢の世界に居るようだった。



 甘くて、優しい世界。
 そんな世界に慣れ切ってしまえば、サーフェーズ王国に戻された時にオルテンスはその王城での日々が耐えられないかもしれないと思っている。だからこの優しくて夢の世界のような日々のことをオルテンスは当たり前だとは思わない。当たり前だと思ってしまうことは出来ない。





「……あんまり、優しくし過ぎないでほしいの」
「どうしてですか?」
「此処での日々が当たり前だと思ったら……私は他の生活が耐えられなくなるかもしれないから」
「オルテンス様!! 大丈夫です。オルテンス様もサーフェーズ王国には返しません」
「……陛下もそれは言っていたけれど、私は勝手にそんなには出来ないわ」
「大丈夫です! サーフェーズ王国より我が国の方が強いんですよ! サーフェーズ王国が何を言ってこようが私たちはオルテンス様をサーフェーズ王国には渡しません。オルテンス様を蔑ろにする国には返しません。よって、オルテンス様は人に大切にされるのが当たり前の日々を送るんです。なので、この生活を当たり前だと思ってくれていいのです」




 ミオラはオルテンスが何と言おうが、オルテンスにメスタトワ王国に留まってもらおうと思っていた。
 そもそもデュドナもオルテンスを花嫁にはしないにしても、サーフェーズ王国に返す気はないので、オルテンスの意志はどうであれ、オルテンスはこのままメスタトワ王国の一員になるだろう。
 オルテンスはその言葉に困ったように笑っている。





「オルテンス様、そんなに困らなくて大丈夫です。オルテンス様はですね、色々細かいことは考えずに私たちに全て任せてもらえればいいのですよ。私たちはオルテンス様が生活をしやすいようにします。私はオルテンス様の未来がどうなるとしてもすっかりオルテンス様のことが大好きになっているので、オルテンス様とずっと交流を持ちたいです」
「……そんな風に誰かに言われるの結構不思議」
「不思議に思わなくていいのですよ。オルテンス様はそれだけ魅力的な方です。寧ろオルテンス様のサーフェーズ王国での現状の方がおかしかったのですから。今の状況の方が当たり前なんです」



 デュドナはオルテンスにわかってもらうためにそう口にする。ただしオルテンスは相変わらず何と答えたらいいか分からない様子である。

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