冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「仲良しではないよ?」

「陛下もオルテンス様と一緒に出掛けませんか?」
「何で俺が?」
「その方がきっとオルテンス様が喜ぶからです」


 すっかりオルテンスのことを気に入っているミオラはデュドナにそんなことを言っている。ちなみにデュドナはお忍びで王都に出かけることも結構ある。しかしオルテンスと一緒に出掛けることは考えていなかった。


「……別にオルテンスが外に出かけることに対して反対はしていない。護衛を連れて行けばいいだろう」
「オルテンス様の初めてのおでかけですよ! 自分の意志でお出かけすることも出来なかったオルテンス様の初めてのお出かけですよ。それを見逃してもいいのですか?」
「逆にお前は俺にも行ってほしいのか?」
「はい! オルテンス様の素敵なお出かけを陛下にも見届けてほしいです。ですから、一緒に行きませんか?」


 ミオラが期待したようにそう言う。その場にいる他の側仕えたちもデュドナをじっと見ている。


 すっかりオルテンスに絆されてしまっているメスタトワ王国の者たちであった。
 デュドナはその視線に呆れたような顔をしながらも、本人もオルテンスのことをそれなりに気にしているので「そんなに言うなら行くか」と口にするのだった。


 そのデュドナの言葉を聞いて、ミオラたちは嬉しそうに笑った。
 彼女たちはオルテンスとデュドナが仲よくなればいいと思っているので、一緒にお出かけをするのは大歓迎である。
 寧ろこのお出かけを気にもっと仲良くなり、そのままオルテンスのことをデュドナの妃に出来ればと企んでいた。






 そのころ、オルテンスはミオラからもらった冊子を見ていた。


 この冊子には王都でのおすすめのお店などがのっているものである。オルテンスはその冊子を見ながら、お金がいることに思い至ってお金を持っていないから買い物が出来ないのではないかとそんなことを心配していた。
 でも例えば買い物が出来なかったとしても王都を探索できるだけでもオルテンスにとってみれば楽しみだった。
 ちなみにこの不安は後でミオラに「お金の心配はいらないです!」と言われて解消される。




「オルテンス様、陛下も一緒に行ってくださるっておっしゃってましたよ。おめかししましょうね」
「陛下も一緒?」
「ええ。オルテンス様の初めてのお出かけに陛下も一緒にきてくれるのです。ある意味デートみたいなものですよ」
「でーと?」
「よくわかっていないオルテンス様は可愛いですね。デートというのは男女で仲良くお出かけすることですよ。護衛もいますけれど、デートですよ。デート!」
「仲良くお出かけって、私と陛下は仲良しではないよ?」
「これから仲よくなればいいのですよ。いえ、これから仲良くなるのです。オルテンス様は陛下も一緒におでかけなの嬉しくないのですか?」
「ううん。嬉しい」


 オルテンスはミオラの問いかけにそう答えて、小さく笑う。
 そうやって嬉しそうに笑うオルテンスを見て、ミオラも嬉しそうだ。




「オルテンス様が喜んでくださっていて嬉しいですよ。オルテンス様は何処に行きたいとか決まりましたか?」
「……全部行ったことがないから、気になるの。でも王都は広そうで全部は見て回れないよね」
「一度では回れないですよ。でも何度でも行けばいいので、オルテンス様が行きたいところに全部行きましょう!」
「何度でも??」



 オルテンスは信じられないとでもいう風にミオラを見ている。


 正直言ってオルテンスにとって、一度王都に出かけるというのだけでも夢みたいな出来事でそれだけでも心が躍るものだった。一度だけで終わりだと思っていたのに、何度でも出かけることが出来ると言われて驚いているのだ。



「はい。オルテンス様、何度でも私たちが連れていきますからね。それに王都だけではなくて、他の街へだって、制限はそれなりにありますが連れていきますからね」



 ミオラのそんな言葉はオルテンスの限られた世界を広げる言葉だった。――オルテンスは、ミオラの言葉を聞いて、やっぱりこの場所は夢みたいだと思っていた。
 今まで全く行ったことのない場所へ行くことが出来る。そしてきっと見た事がないことや経験したことのないことを沢山経験出来るようになるだろう。
 そのことに対する少しの興奮と、少しの不安をオルテンスは感じている。



「オルテンス様、私たちがオルテンス様の初めてのお出かけを絶対に楽しいものにすることを約束しますからね!!」



 でもミオラがそんな風に、嬉しそうに満面の笑みを浮かべるから不安も少しずつ飛んでいくのであった。



 そしてそれから数日後、オルテンスは初めての王都へと出かけることになる。


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