冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「これ、とっても可愛いです」

 オルテンスはキラキラした瞳をしながら、夢中になって雑貨を見ている。


 どれを買ってもらおうか……そうかんがえるだけでドキドキしている様子である。
 オルテンスは買い物をするというのも初体験である。こんなにも心躍る選択の場があるのかとオルテンスは驚いているものである。


 頭を悩ますオルテンスは大変表情豊かである。
 その様子をまわりはほのぼのとした目で見ている。


 そしてオルテンスは一点に視線を向けて、釘付けになった。それは小さなお人形である。机や椅子などのミニチュアと一緒にセットになって販売されているそれをじっと見ている。


「……オルテンス、それが気になったのか?」
「これ、とっても可愛いです」
「じゃあ、店主、これを」
「えっと、でも」
「遠慮はするな。それに他に選べ」


 デュドナは遠慮するオルテンスにそう言い放って、お人形の会計を済ませてしまう。そのデュドナの視線にオルテンスは観念して他にほしいものをおずおずと手に取る。


「えっと、こ、これとか」
「じゃあこれもだな。他は?」
「じゃあ……」


 デュドナはオルテンスが手に取ったものを全部購入しようと提案する。
 その様子をミオラたちはにこにこしながら見ていた。
 結局オルテンスは沢山のものを雑貨屋で買ってもらった。しかも購入したものをミオラたちが持ち、オルテンスは身軽なままである。
 オルテンスはこんなに購入してもらって良かったのだろうかと、相変わらず遠慮した様子である。



「オルテンス、他に何処に行く?」
「……えっと」
「遠慮はするな」


 遠慮はしないようにと言われて、オルテンスは戸惑いながら口を開いた。


「えっと……」


 戸惑うオルテンスは、お腹をぐぅと鳴らした。


「お腹すいたのか。何か食うか」
「はい」



 オルテンスはお腹がなってしまったことに少しだけ恥ずかしそうにしている。はじめての外出に興奮してしまっていた様子である。
 オルテンスは何処のお店に入るかと聞かれたものの、何処に行けばいいのかさっぱり分からなかった。何故なら王都には沢山の飲食店が立ち並んでいる。その中から何処に行きたいか中々選べなかった。



「オルテンス、適当に入るでいいんだぞ。これからも王都に降りることは出来る」
「……じゃ、じゃあ、あそこにしてみる!」



 オルテンスはそう言って、一つの飲食店を指さす。所謂大衆食堂のようなものである。そのお店は結構人気のお店らしく、何人もの人たちが並んでいる。


 オルテンスたちはお忍びで此処にきているので、大人しく後ろに並ぶ。こうやって行列に並ぶこともオルテンスは初めてなので、それも何だか楽しそうだ。
 結構な列を並んでいるのに、オルテンスは楽しそうににこにことしている。
 どんなものが食べられるかなとか、こういうところ初めてだなとかそういう気持ちでオルテンスはいっぱいだ。
 初めてのことが沢山で、オルテンスは嬉しい様子である。
 ミオラたちはその様子を見て相変わらずほのぼのしている。



「何を食べましょうかね」



 ミオラがそう言いながら、オルテンスにメニューを見せる。並んでいる間にメニューが見れるようになっているらしい。
 それを見ながら目を輝かせているオルテンスは誰がどう見ても箱入り娘のようにしか見えない。
 オルテンスが何者か知らずに前後に並んでいる王都の民たちも和やかな笑みを浮かべている。ちなみにミオラはその様子を見ながら、「オルテンス様は可愛いですからね」と心の中で頷いていた。


 しばらく待って、オルテンスたちがお店の中へと入ることが出来た。
 沢山の人たちが大衆食堂の中でにぎわっている。こうやって大勢で食事をとっている人達を見たのはオルテンスにとって初めてである。
 こんな場所があるんだと、不思議な気持ちになり、それと同時に楽しかった。



「わぁ」
「向こうの席が空いているみたいなので、行きましょう」



 オルテンスたちは四人掛けの席へと腰かける。オルテンスは楽しそうに周りをきょろきょろしていて、デュドナに「あまりきょろきょろするな」と言われて我慢する。
 そしてオルテンスはメニューを見ながらまた何を頼むかと悩みだすのである。


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