冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった
「まるで、夢の国にいるみたい」
オルテンスは夢心地な気持ちである。
冷酷王と呼ばれているデュドナは、決して冷酷には見えなかった。そもそも美味しい料理を食べさせてくれて、ふかふかのベッドに眠らせてくれて、とても充実した日々である。
そういう暮らしを与えられているというだけでもサーフェーズ王国にいた頃とは全く違って、ふわふわした気持ちになる。
美味しいものを食べれて、ふかふかのベッドで眠ることが出来て――、そして痛い思いをすることもない。
ぼーっと、ベッドに座り込むオルテンスに侍女兼監視役のミオラが声をかける。
「オルテンス様、ずっとぼーっと座ってらっしゃいますが、したいことをしていいのですよ」
「したいことをしていい……?」
オルテンスは不思議そうな顔をする。
そんなことを言ってくれる人など、今までいなかった。オルテンスは第一王女とはいえ、虐げられてきたお姫様だ。だからずっと、限られた世界で、自由もなく生きてきた。
勝手に何かをしたら大変な目にあってきたのがオルテンスだ。
だからこそ、自分がやりたいことなどとうの昔にしまい込んでしまっていた。
不思議そうな顔をするオルテンスを見て、ミオラは庇護欲が湧く。
このお姫様は、ずっとそういう当たり前のことをしてこなかったんだというのがミオラにもすぐわかる。
「そうですよ。オルテンス様は陛下の花嫁候補ですから、自由に過ごしていいのですよ」
「自由に……」
「はい。オルテンス様は何かしたいことはありませんか?」
ミオラはまるで子供に問いかけるような優しい口調で、オルテンスに問いかける。
オルテンスはその言葉に思考する。
自分がやりたいことと考えてもぴんと来ない。その黒い瞳が、ふと窓の外を見た。
祖国にいた頃、オルテンスには自由がなかった。何か余計なことをしようものなら、どうしようもないほど理不尽に罰が与えられた。いや、何もやらなかったとしてもオルテンスには罰が与えられていたわけだが。
オルテンスは、限られた場所だけ生きてきたからこそ、開放的な場所へのあこがれがあった。
「……たい」
「何ですか、オルテンス様」
「あの綺麗な空の下で、日向ぼっこしたい……」
オルテンスが口にしたのは、おおよそお姫様が口にするようなものでは決してなかった。それなりの身分の令嬢は、はしたないといってそもそも日向ぼっこなどしない。
少し活発な令嬢ならば日向ぼっこぐらいするかもしれないが、大国に花嫁候補として来ていながらこんな風に日向ぼっこを望む姫は初めてである。
ミオラはこれまで幾人ものデュドナの花嫁候補と接してきたがこれは初めてのパターンである。
でもミオラは恐る恐る日向ぼっこがしたいなんて口にするオルテンスの願いを叶えたくなった。
「では、行きましょうか」
「いいの?」
「もちろんです」
オルテンスは、ミオラの言葉に嬉しそうに笑った。
素朴で愛らしい笑みを見て、直視していたミオラだけではなく監視している影も「可愛い……」と呟いていた。
そしてミオラたちと一緒にオルテンスは外に出る。
メスタトワ王国の王城には、美しい庭園がある。これは先代王妃が、花を愛していたからである。美しく珍しい花が咲いているようだ。この庭園を管理している庭師は、デュドナの母親であった先代王妃を敬愛していた。というのもあり、先代王妃がなくなっている今もその場は美しく整えられている。
特に教育をされていないオルテンスは、そこに美しい花々が咲き誇っていてもその花の名を特に知らない。でもその光景が美しいことは分かる。とはいえ、オルテンスにとっての目的は日向ぼっこである。
「ねぇ、座っていい?」
「ええ。どうぞ」
王の花嫁候補が地べたに座り込むなど勧めるべきことではないかもしれないけれども、ミオラはオルテンスの言葉を叶えたかったので頷いた。
ちなみについてきている影もミオラを見て頷いているので、特に問題はないだろう。
オルテンスは、草の茂るその場所に腰を下ろす。
こうやって気持ちが良い場所で、腰を下ろすなんていうのも初めてだった。オルテンスは部屋の中に閉じこもってばかりだった。部屋の外に出ることが許されていなかったというのもあるが、ずっと窓の外にオルテンスは憧れていた。
「わぁ……」
嬉しそうな声をあげて、オルテンスは笑っている。
嬉しそうな笑みを浮かべて、座り込むどころか寝転がる。
あまりにも気持ちよさそうに、嬉しそうに空を見上げるオルテンスを見てミオラたちも止めることはしなかった。
ぽかぽかとした日差しを感じながら、オルテンスはにこにこである。
「オルテンス様、楽しそうですね」
「うん。だって、まるで夢の国みたいだから」
そんなことを言いながら嬉しそうに笑うオルテンス。ミオラはそれを聞いて、小さく笑って思わずオルテンスの頭に手を伸ばそうとして、ミオラはやめる。
流石に陛下の花嫁候補の頭を撫でるのは……と思ったようだ。
オルテンスは撫でられたことがないので、寧ろ手を伸ばされて叩かれるのではと一瞬ぶるっと身体を震わす。しかし衝撃はなく引っ込められたので、不思議そうな顔をしている。
ミオラは「撫でたい」と言えなかったのでそのままである。ミオラはひそかにいつか、オルテンスの頭を撫でることを目標にする。
そんな決意をされていると全く思っていないオルテンスは、あまりのぽかぽかした日差しにそのまま眠ってしまうのだった。
冷酷王と呼ばれているデュドナは、決して冷酷には見えなかった。そもそも美味しい料理を食べさせてくれて、ふかふかのベッドに眠らせてくれて、とても充実した日々である。
そういう暮らしを与えられているというだけでもサーフェーズ王国にいた頃とは全く違って、ふわふわした気持ちになる。
美味しいものを食べれて、ふかふかのベッドで眠ることが出来て――、そして痛い思いをすることもない。
ぼーっと、ベッドに座り込むオルテンスに侍女兼監視役のミオラが声をかける。
「オルテンス様、ずっとぼーっと座ってらっしゃいますが、したいことをしていいのですよ」
「したいことをしていい……?」
オルテンスは不思議そうな顔をする。
そんなことを言ってくれる人など、今までいなかった。オルテンスは第一王女とはいえ、虐げられてきたお姫様だ。だからずっと、限られた世界で、自由もなく生きてきた。
勝手に何かをしたら大変な目にあってきたのがオルテンスだ。
だからこそ、自分がやりたいことなどとうの昔にしまい込んでしまっていた。
不思議そうな顔をするオルテンスを見て、ミオラは庇護欲が湧く。
このお姫様は、ずっとそういう当たり前のことをしてこなかったんだというのがミオラにもすぐわかる。
「そうですよ。オルテンス様は陛下の花嫁候補ですから、自由に過ごしていいのですよ」
「自由に……」
「はい。オルテンス様は何かしたいことはありませんか?」
ミオラはまるで子供に問いかけるような優しい口調で、オルテンスに問いかける。
オルテンスはその言葉に思考する。
自分がやりたいことと考えてもぴんと来ない。その黒い瞳が、ふと窓の外を見た。
祖国にいた頃、オルテンスには自由がなかった。何か余計なことをしようものなら、どうしようもないほど理不尽に罰が与えられた。いや、何もやらなかったとしてもオルテンスには罰が与えられていたわけだが。
オルテンスは、限られた場所だけ生きてきたからこそ、開放的な場所へのあこがれがあった。
「……たい」
「何ですか、オルテンス様」
「あの綺麗な空の下で、日向ぼっこしたい……」
オルテンスが口にしたのは、おおよそお姫様が口にするようなものでは決してなかった。それなりの身分の令嬢は、はしたないといってそもそも日向ぼっこなどしない。
少し活発な令嬢ならば日向ぼっこぐらいするかもしれないが、大国に花嫁候補として来ていながらこんな風に日向ぼっこを望む姫は初めてである。
ミオラはこれまで幾人ものデュドナの花嫁候補と接してきたがこれは初めてのパターンである。
でもミオラは恐る恐る日向ぼっこがしたいなんて口にするオルテンスの願いを叶えたくなった。
「では、行きましょうか」
「いいの?」
「もちろんです」
オルテンスは、ミオラの言葉に嬉しそうに笑った。
素朴で愛らしい笑みを見て、直視していたミオラだけではなく監視している影も「可愛い……」と呟いていた。
そしてミオラたちと一緒にオルテンスは外に出る。
メスタトワ王国の王城には、美しい庭園がある。これは先代王妃が、花を愛していたからである。美しく珍しい花が咲いているようだ。この庭園を管理している庭師は、デュドナの母親であった先代王妃を敬愛していた。というのもあり、先代王妃がなくなっている今もその場は美しく整えられている。
特に教育をされていないオルテンスは、そこに美しい花々が咲き誇っていてもその花の名を特に知らない。でもその光景が美しいことは分かる。とはいえ、オルテンスにとっての目的は日向ぼっこである。
「ねぇ、座っていい?」
「ええ。どうぞ」
王の花嫁候補が地べたに座り込むなど勧めるべきことではないかもしれないけれども、ミオラはオルテンスの言葉を叶えたかったので頷いた。
ちなみについてきている影もミオラを見て頷いているので、特に問題はないだろう。
オルテンスは、草の茂るその場所に腰を下ろす。
こうやって気持ちが良い場所で、腰を下ろすなんていうのも初めてだった。オルテンスは部屋の中に閉じこもってばかりだった。部屋の外に出ることが許されていなかったというのもあるが、ずっと窓の外にオルテンスは憧れていた。
「わぁ……」
嬉しそうな声をあげて、オルテンスは笑っている。
嬉しそうな笑みを浮かべて、座り込むどころか寝転がる。
あまりにも気持ちよさそうに、嬉しそうに空を見上げるオルテンスを見てミオラたちも止めることはしなかった。
ぽかぽかとした日差しを感じながら、オルテンスはにこにこである。
「オルテンス様、楽しそうですね」
「うん。だって、まるで夢の国みたいだから」
そんなことを言いながら嬉しそうに笑うオルテンス。ミオラはそれを聞いて、小さく笑って思わずオルテンスの頭に手を伸ばそうとして、ミオラはやめる。
流石に陛下の花嫁候補の頭を撫でるのは……と思ったようだ。
オルテンスは撫でられたことがないので、寧ろ手を伸ばされて叩かれるのではと一瞬ぶるっと身体を震わす。しかし衝撃はなく引っ込められたので、不思議そうな顔をしている。
ミオラは「撫でたい」と言えなかったのでそのままである。ミオラはひそかにいつか、オルテンスの頭を撫でることを目標にする。
そんな決意をされていると全く思っていないオルテンスは、あまりのぽかぽかした日差しにそのまま眠ってしまうのだった。