冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「陛下のためになれるの嬉しい」

「此処に何もせずにとどまっているのが、申し訳ない気持ちになっているのか?」
「うん」
「それは別に気にしなくていい。そもそも俺がとどまっていいと言ったんだぞ? お前は此処にいるだけで問題ない」


 デュドナはそんなことを言い切る。
 だけどオルテンスはそれに対して告げる。



「陛下がそういうことを言ってくれることは嬉しいです。でも私……陛下やミオラたちに沢山与えられてばっかりだって思います。私は何の価値もない人間だし、役に立たないかもしれないけれど、何か出来ることがあったらって」


 そう言って、オルテンスは床に視線を落とす。


 此処にいるだけでいいと言ってくれるメスタトワ王国の人々に、価値がないと知られて彼らが冷たくなったら――と少し考えてしまったようだ。騙されてもいいと、この優しさが偽りでもいいとそう思っているけれども――だけど、この国の役に立ちたいと思っていた。


 オルテンスは今まで、誰かに何かをしてあげたいという気持ちも抱いてこなかった。
 祖国で価値がないこと、そして役立たずと言われてきたこと。その命は国のためだと言われ続けたこと。それは強制的に、言い聞かせられ続けていたこと。
 だけれども今のオルテンスの言葉は、自発的に告げられた言葉である。
 心への余裕が出来たからこそ、オルテンスは自分からそのことを申し出たのだ。



「……価値がない、役立たずはやめろ。少なくとも、この城に居る者たちはお前のことをそんな風には思っていない」
「でも」
「そもそも本当に価値がない人間だったら、俺は国に留まれとは言わない。お前がお前だからこそ、この国に留まればいいと俺は思ったんだ。それだけでもお前の価値だと言えるだろ?」
「……私が、私だから」
「ああ。第一、ミオラもそうだが、お前のことを相当気に入っている。お前が楽しそうに過ごしているだけで、奴らは仕事へのやる気をより一層出している。それだけでも価値だろう」


 デュドナはそんなことを言いながらオルテンスの事を見る。


 オルテンスには自信というものがない。その低すぎる自己評価。それをどうにかするのにはすぐには難しいだろう。



「それで、何かしたいというのなら……そうだな、これを纏められるか?」
「これは?」
「国内の作物に対する報告書だな。文官に教えてもらいながらでいいからまとめてみるか?」
「……私が、そんなものを見て良いの?」
「別にみられて困るものではない。それにオルテンスはそれを悪用する気はないだろう?」
「うん。分かりました!」


 オルテンスはデュドナからの提案に力強く頷く。


 オルテンスは嬉しかった。こうしてどれだけ力になれるかもわからないけれど、デュドナのために行動出来ることが。
 そういうわけで文官に見守られながらオルテンスはデュドナの仕事のお手伝いをすることになった。



 その文官もオルテンスのことは把握している。
 それでいて、オルテンスのことを可愛がっている。
 とはいえ、それと仕事は別の話である。デュドナが許可を出したこととはいえ、オルテンスが仕事に関わるのならば甘やかすつもりはなかった。
 なので、オルテンスのことは厳しく指導したわけである。


 ただオルテンスは指導されることも苦には思っていないようだった。
 今まで誰の目にも止まらず、誰もオルテンスのためを思って指導してくれる人なんていなかったのだ。
 目の前の文官がオルテンスのためを思って指導してくれていることが分かるからこそ……、オルテンスはその助言を聞いて効率よく仕事を進めていた。
 案外というより、オルテンスはそういう機会が与えられてこなかっただけで出来が悪いわけではなかった。
 そういうわけでオルテンスはてきぱきと与えられた仕事を進められていた。その事実にデュドナたちも驚いたものである。



「オルテンスは結構仕事が速いな」
「陛下のためになれるの嬉しい」



 褒められたオルテンスは嬉しそうに笑いながら、そんなことを言う。


 オルテンスにとってデュドナのお手伝いは初めてのことばかりだ。それでいて正直言ってこういう書類仕事は楽しいものであるかといえば否である。それでもオルテンスはデュドナのためになれるならと楽しんでそれをこなしていた。
 それ以降、オルテンスはデュドナの仕事を手伝うようになった。もちろん、ただの花嫁候補なので機密事項などに触れる項目には関わることはない。
 それでもそういう動きからオルテンスの優秀さも広まっていった。あとは執務室にオルテンスがいることで、周りの者たちも癒され、仕事効率が上がっていた。
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