冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「私のことを大切にしてくれていることをもう知ってますから」

「オルテンス、王妃になるならお茶会でもするか?」
「お茶会?」
「ああ。オルテンスに友達を作る機会だろう」
「友達?」
「ああ。王妃として生きるなら、少しは貴族と関わっていたほうがこれからやりやすいかもしれない。……ただオルテンスが嫌なら、そういう社交をしなくてもいいが」


 オルテンスはその言葉を聞いて、一瞬きょとんとした表情をして笑った。


 デュドナの言葉は何だかんだオルテンスのことを甘やかしている言葉だった。王妃という立場になるのならば、きっと王族としての責務をこなす必要があるだろう。だというのに、何処までもこの国の人々は、デュドナは……特別なことはしなくてもいいからそこにいればいいだなんてそんな風に笑うのだ。


 オルテンスがオルテンスであればいいと、そんな風に存在そのものを否定されていた少女がその存在そのものを受け入れられる。
 ――そのことは奇跡的な状況と言えるだろう。



「陛下、心配してくれてありがとうございます! でも大丈夫です。私、お友達って作ったことなかったから、お友達作ってみたいです!」
「……オルテンスに心無い言葉を告げてくるやつもいるかもしれないぞ?」
「そういうのは大丈夫です。だって、私は陛下たちが私のことを大切にしてくれていることをもう知ってますから。陛下たちが私のことを大切にしてくれているってその事実があれば私は無敵ですから」


 ――例えばどれだけ大変な状況に陥ったとしても、正直の話、どうでもいいことなのだ。


 だってオルテンスは自分を大切に思ってくれている人がいることを既に知っている。そして自分の味方をしてくれる人がいると言う事実がこれだけ嬉しくて、勇気が出ることだともう知ってしまっている。
 オルテンスの言葉に、デュドナも笑った。


 そういうわけで、オルテンスにお友達を作ろうという作戦がメスタトワ王国の王城にいる者たち手動の元行われることになった。



 オルテンス・サーフェーズという、ただのデュドナの花嫁候補の一人にすぎなかった少女が王妃になるという事実は既にメスタトワ王国の貴族達には広まっている。
 その少女の情報を集めようとしたものの、入ってくる情報は表立ってサーフェーズ王国の姫として行動していたオルテンスの義の妹の評判ばかりである。



 元々オルテンスは外に出ることも全くなかったような存在である。
 ずっと限られた空間で、閉じ込められるように、表舞台に立つことはなかった。きっと、オルテンスは妹姫の代わりにメスタトワ王国にやってくるということがなければそのまま朽ち果てていったことだろう。
 ――そんな情報が全く入ってこない姫であるオルテンス。大国の王妃になるオルテンスに対する関心は高い。
 だからこそ、オルテンスの名義でお茶会の知らせが届けられた女性たちは興味を引かれ、参加の返事がすぐに届くのだった。




「……ねぇ、ミオラ。沢山返事がきているんだけど。私に会いたいって」



 オルテンスは届けられた返事の手紙を見て、思わずそう告げる。




「それは当然ですよ。だって陛下は今まで色んな花嫁候補と接して、それで誰一人王妃にはしませんでしたからね。その陛下が他でもないオルテンス様のことを王妃にしたいとおっしゃっているんですよ? だから貴族の方々もオルテンス様に興味津々なんです」
「そっか」
「そうですよ。お声がけしている方々は、陛下に忠誠を誓っている家の女性ばかりですから安心してくださいね。将来的にオルテンス様を気に食わないという方とも接さなければいけなくなるかもしれないですが、一先ず、お友達を作りましょう」
「お友達になってくれるかな?」
「大丈夫です。陛下が望んだ花嫁を認めないなんて言う馬鹿は今回のお茶会ではきません。もしそういう方がいても近づけさせる気もありませんし。まぁ、そういう馬鹿がいてもオルテンス様は自信満々に笑っていればいいんです」



 ミオラはそんなことを言いながらにこにこしていた。


 王妃になることが決まったオルテンスの側には沢山の侍女がいるが、やはりミオラが一番オルテンスの信頼を得ている侍女だと言えるだろう。


 ちなみにオルテンスはお茶会に参加したことは一度もないので、今回主催者として参加するためにそう言った本を読んだり、王城に侍女として仕えている貴族令嬢たちから話を聞いて練習したりもしていた。
 デュドナたちは「何も気にせず参加すればいい」などというが、オルテンスは王妃になるのならばしっかりしないとと準備しているのであった。

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