冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「ウエディングドレスって綺麗です」

「わぁ」



 オルテンスは目の前にあるドレス――オルテンスが結婚式で着る予定のウエディングドレスが鎮座している。
 レースのふんだんに使われた真っ白なドレス。それでいて所々が真珠で彩られていて、とても美しい。オルテンスはその準備されたドレスを身ながら、自分がこのドレスを着るのかと心を躍らせた。



「オルテンス様、どうですか?」
「ウエディングドレスって素敵です。でもこんなに素敵なドレスが私に似合うかな」



 仕立て屋の問いかけにオルテンスはそう答える。
 そのドレスはオルテンスが今まで見たことがないようなとても素敵なドレスだったから。
 そんなオルテンスを見て、仕立て屋は言う。



「オルテンス様に似合うように作らせていただきたもの。似合わないなんてことはありませんわ。寧ろ、このドレスが一番似合うのはオルテンス様だけです」
「ふふ、ありがとう」


 一番似合うなんて言われて照れ臭かったけれど、オルテンスは笑った。
 その笑顔を見て、周りの者達はにこにこしている。


 ミオラたちからしてみれば、オルテンスが王妃になるための道を着実に歩んでいることが嬉しい様子である。
 さて、そしてオルテンスはそのドレスの試着をした。



「オルテンス様綺麗です」
「美しいです!」
「お似合いですよ」


 とオルテンスは沢山の言葉をかけられた。


 実際にそのドレスはオルテンスの可愛さを引き立てていて、とても良い出来だった。
 ちなみにオルテンスは試着したままデュドナに見せようとしたのだが、周りから「楽しみは最後にとっておきましょう」などと言われてデュドナの元へ行くのを断念した。


 当日に見せた方がいいという判断のようである。
 さてオルテンスは完成したドレスを大変気に入っていて、よくそのドレスを身にいっていた。



「ふふ」
「オルテンス様、ドレスを見ながら笑っていて凄く可愛いです」
「だって、私が結婚するんだなって。ウエディングドレスって結婚の象徴みたいな感じじゃない? 私ね、結婚って単語は知っていても誰かと結婚なんて出来ないだろうなって思ってたから」


 オルテンスがそんなことを告げる。


 結婚式の象徴でもあるような、ウエディングドレス。目の前のそれが自分のためのものだなんてオルテンスにとってはやっぱり夢みたいな感覚である。
 自分なんかを奥さんにしてくれる人がいないと思っていた。痛い思いをせずに死ぬことばかり考えていて、そんな先の未来のことなんて考えてなかった。
 でもそんなオルテンスが今、未来のことだけを考えている。
 デュドナと結婚して、この城で楽しく過ごすことばかり考えているのだ。






「私、この国に来た時陛下に殺されることばかり考えていたのに……如何に痛みを感じずに殺されるかって。でも私が陛下と結婚するんだなって」
「ふふ、そうですよ。オルテンス様は陛下と結婚して幸せになるんです。オルテンス様の子供も見たいですから」
「……ねぇ、ミオラ。子供ってどうやって作るの?」



 オルテンスはふと気になったことをミオラに聞いた。



 オルテンスは居ないものとして生きてきた姫なので、そういう教育を特に受けたことはなかった。ミオラはその言葉を聞いて一瞬固まる。



「大丈夫です。オルテンス様、そういうのは全部陛下にお任せでいいです!! オルテンス様は何も心配しなくていいですからねー」


 そう言い笑顔で言い切った。


 オルテンスにそういう教育をすることも可能だったが、此処は夫になるデュドナに教えてもらった方がいいだろうと思ったらしい。
 オルテンスは不思議な笑顔で言い切るミオラに首をかしげたものの、ミオラの言うことならば問題ないだろうと頷くのであった。



 そういう会話をしたからというのもあるが、オルテンスは自分に子供が出来たらどんな感じだろうかとそんな思考をしていた。自分に子供が出来るかもしれないなんて考えた事もなかった。
 ――でもきっと、デュドナとの子供ならば可愛がれるだろうと思った。



 オルテンスは父親に疎まれてきた姫なので、親が確実に子供を愛すわけではないことを知っている。それでもきっともし子供が出来たとしたら可愛がるだろうと思う。
 ずっと誰かに可愛がられることなど経験はない。それでも周りにデュドナやミオラたちがいるのならばきっと何だって問題がない。


 例えばオルテンスが間違ったことをしようとすれば、周りが止めてくれるだろう。


「ミオラ、私、陛下の子供ほしい」
「それを陛下にいいましょう!」



 ミオラはそんなことを言いながらにこにこするのだった。

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