わたしの妄想日記
居酒屋の後のベンチで
行きつけの居酒屋に2人。
個室のため外から中は見えない。
上と下がシースルーの襖なので、少し頼りない気がする。
最近はこういうのが流行りなのだろうか?
速水玲那はそんなことを思いながら立川翔と今日もこの店に来ていた。
玲那は今年で24歳、翔は34歳といったところだ。
翔は玲那と10歳離れているが、都内の建築会社に勤め、営業部に所属しているエリート社員だ。
今日は青い上着を纏い、ズボンはカジュアルな黒のズボンである。
いつもはしていない眼鏡をかけ、こちらを楽しそうに眺めている。
翔とは屋台で知り合い、すぐに意気投合し、飲みに行く仲になっていた。
ただ、この進みきれない関係を玲那は今日こそどうにかしたいと思っていた。
「今日の玲那は静かだね。いつもあんなにはしゃいでるのに」
優しい眼差しをこちらに向けながら翔が言う。
「どういう意味よ!アホっぽく見えるってこと?」
玲那は即座に言い返した。
「そんなことはないって」.
翔は相変わらず楽しそうにしながら玲那にそう言った。
玲那は不服そうな顔をしながら、真っ直ぐ翔の顔を見つめていた。
(この人は一体私のことどう思ってるんだろう)
ふと席を立ち上がり、おもむろに翔の隣に座る。
翔はどしたん?という顔をしながら内心まんざらでもないようである。
「獺祭です〜」
店員が元気の良い声で襖を開けて、グラスを渡す。
玲那はそれを受け取るなり、意を決して一気に飲み干した。
「ちょ、おい。やめとけって」
翔は玲那のグラスを持って止めようとしたが玲那はとうとうそれを飲み干してしまった。
翔はやれやれという顔で玲那見たが、玲那の様子はどこ吹く風である。
玲那は翔の綺麗な横顔を熱い眼差しで見つめ、アルコールの酔い共に世界が回転するような心地でいた。
すっと翔の肩に頭を乗せた。
翔はそのまま何もしなかった。
それに嫌気が差したのか、玲那は頭を起こし、翔の顔の前に自分の顔を持ってきた。
翔はやや驚いた顔をしていたが、やがてニコニコとこの正体不明の小動物を眺めるような目に変わった。
「好き」
翔は目をまんまるにした。
「めっちゃ好きなの」
玲那はそう続けた。
「おいおい酔ってんなぁ。お前後で後悔するぞ?」
翔は玲那の頭を軽くこづいて、それから優しく頭の上に置いた。
玲那はバツの悪そうな顔をしていたが、翔は至って、満足げである。
それからしばらくして2人は店を出た。
街の街灯はまだ赤々とあたりを照らしていた。
酔っ払いは通行人に絡み、介抱する人はなかなか大変そうである。
そんな中を2人はふらふらと小劇場の前まで歩いていた。
玲那よりはいくらかましであった翔もさすがに顔が赤らみ酔っ払っていた。
「もう歩けなーい」
酔っ払った玲那が駄々をこね始める。
「しょうがないなぁ。そこのベンチに座るか。酔い覚ましをしようか」
翔は優しく玲那にそう言った。
2人でベンチに腰掛けるとき謝って玲那の右手の小指と、翔の左手の小指が触れた。
2人は何事もなかったかのように取り繕い、話し続けていたが、頭の隅ではいくらか気になっていた。
ふと玲那がベンチにまつわる友人の話をした。
「りんがさ、病院の前のベンチに彼氏候補か彼氏かわからんけど、2人で行ってイチャイチャしてたらしい。何してたんだろうね?チューしてたのかな?」
玲那がキャっキャっと楽しそうに話しているのを翔は余裕な様子でいた。
翔は魔が刺したように急に玲那の少しだけ触れていた手を握った。
玲那はそれに気づかないふりをしていた。
ふと翔の隣を猫が通った。
「あ、猫」
玲那は白猫か黒猫かと盛り上がっていた。
その時、玲那の右手は翔の左肩に置かれ、顔は翔の前にあった。
玲那が翔の方を向くと、かなり近い距離まで顔が近づいていることに気づいた。
玲那は一瞬、たじろいだが我を取り戻そうとした。
翔は夏の魔物に取り憑かれたようにふいに優しく目の前の玲那にキスをした。
玲那は驚き、何か言おうとしたが、それを翔がまたキスで塞いだ。
しばらくして2人は顔を離すと、2人の間にはなんともいえない空気が流れた。
「好き」
翔は小さくつぶやくように玲那に言った。
玲那が翔の方を改めて見ると、翔は自分の腕で顔を隠していた。
そしてよく見ると耳が赤くなっていた。
「翔耳真っ赤じゃん。こっち見てよ。かっわいい」
玲那は翔が可愛く思え、ますます翔を笑った。
翔は完全にバツが悪くなっているが、もう役目を果たしたぞと胸を張った気持ちでいた。
「あーもっそろそろ終電やし帰ろ」
いよいよ恥ずかしくなった玲那がそう切り出した。
すると立ち上がった玲那の手を翔は取った。
「待って」
玲那は振り返って座っている翔の股の間に立つ格好になっていた。
翔の手は腰に回されていた。
翔は俯いていた顔をあげ、玲那の目を真剣に見つめた。
「俺んち来る?」
玲那は静かに頷いた。
それから、翔は立ち上がり、玲那の手を引いて、2人で自分の家まで帰った。
fin.
個室のため外から中は見えない。
上と下がシースルーの襖なので、少し頼りない気がする。
最近はこういうのが流行りなのだろうか?
速水玲那はそんなことを思いながら立川翔と今日もこの店に来ていた。
玲那は今年で24歳、翔は34歳といったところだ。
翔は玲那と10歳離れているが、都内の建築会社に勤め、営業部に所属しているエリート社員だ。
今日は青い上着を纏い、ズボンはカジュアルな黒のズボンである。
いつもはしていない眼鏡をかけ、こちらを楽しそうに眺めている。
翔とは屋台で知り合い、すぐに意気投合し、飲みに行く仲になっていた。
ただ、この進みきれない関係を玲那は今日こそどうにかしたいと思っていた。
「今日の玲那は静かだね。いつもあんなにはしゃいでるのに」
優しい眼差しをこちらに向けながら翔が言う。
「どういう意味よ!アホっぽく見えるってこと?」
玲那は即座に言い返した。
「そんなことはないって」.
翔は相変わらず楽しそうにしながら玲那にそう言った。
玲那は不服そうな顔をしながら、真っ直ぐ翔の顔を見つめていた。
(この人は一体私のことどう思ってるんだろう)
ふと席を立ち上がり、おもむろに翔の隣に座る。
翔はどしたん?という顔をしながら内心まんざらでもないようである。
「獺祭です〜」
店員が元気の良い声で襖を開けて、グラスを渡す。
玲那はそれを受け取るなり、意を決して一気に飲み干した。
「ちょ、おい。やめとけって」
翔は玲那のグラスを持って止めようとしたが玲那はとうとうそれを飲み干してしまった。
翔はやれやれという顔で玲那見たが、玲那の様子はどこ吹く風である。
玲那は翔の綺麗な横顔を熱い眼差しで見つめ、アルコールの酔い共に世界が回転するような心地でいた。
すっと翔の肩に頭を乗せた。
翔はそのまま何もしなかった。
それに嫌気が差したのか、玲那は頭を起こし、翔の顔の前に自分の顔を持ってきた。
翔はやや驚いた顔をしていたが、やがてニコニコとこの正体不明の小動物を眺めるような目に変わった。
「好き」
翔は目をまんまるにした。
「めっちゃ好きなの」
玲那はそう続けた。
「おいおい酔ってんなぁ。お前後で後悔するぞ?」
翔は玲那の頭を軽くこづいて、それから優しく頭の上に置いた。
玲那はバツの悪そうな顔をしていたが、翔は至って、満足げである。
それからしばらくして2人は店を出た。
街の街灯はまだ赤々とあたりを照らしていた。
酔っ払いは通行人に絡み、介抱する人はなかなか大変そうである。
そんな中を2人はふらふらと小劇場の前まで歩いていた。
玲那よりはいくらかましであった翔もさすがに顔が赤らみ酔っ払っていた。
「もう歩けなーい」
酔っ払った玲那が駄々をこね始める。
「しょうがないなぁ。そこのベンチに座るか。酔い覚ましをしようか」
翔は優しく玲那にそう言った。
2人でベンチに腰掛けるとき謝って玲那の右手の小指と、翔の左手の小指が触れた。
2人は何事もなかったかのように取り繕い、話し続けていたが、頭の隅ではいくらか気になっていた。
ふと玲那がベンチにまつわる友人の話をした。
「りんがさ、病院の前のベンチに彼氏候補か彼氏かわからんけど、2人で行ってイチャイチャしてたらしい。何してたんだろうね?チューしてたのかな?」
玲那がキャっキャっと楽しそうに話しているのを翔は余裕な様子でいた。
翔は魔が刺したように急に玲那の少しだけ触れていた手を握った。
玲那はそれに気づかないふりをしていた。
ふと翔の隣を猫が通った。
「あ、猫」
玲那は白猫か黒猫かと盛り上がっていた。
その時、玲那の右手は翔の左肩に置かれ、顔は翔の前にあった。
玲那が翔の方を向くと、かなり近い距離まで顔が近づいていることに気づいた。
玲那は一瞬、たじろいだが我を取り戻そうとした。
翔は夏の魔物に取り憑かれたようにふいに優しく目の前の玲那にキスをした。
玲那は驚き、何か言おうとしたが、それを翔がまたキスで塞いだ。
しばらくして2人は顔を離すと、2人の間にはなんともいえない空気が流れた。
「好き」
翔は小さくつぶやくように玲那に言った。
玲那が翔の方を改めて見ると、翔は自分の腕で顔を隠していた。
そしてよく見ると耳が赤くなっていた。
「翔耳真っ赤じゃん。こっち見てよ。かっわいい」
玲那は翔が可愛く思え、ますます翔を笑った。
翔は完全にバツが悪くなっているが、もう役目を果たしたぞと胸を張った気持ちでいた。
「あーもっそろそろ終電やし帰ろ」
いよいよ恥ずかしくなった玲那がそう切り出した。
すると立ち上がった玲那の手を翔は取った。
「待って」
玲那は振り返って座っている翔の股の間に立つ格好になっていた。
翔の手は腰に回されていた。
翔は俯いていた顔をあげ、玲那の目を真剣に見つめた。
「俺んち来る?」
玲那は静かに頷いた。
それから、翔は立ち上がり、玲那の手を引いて、2人で自分の家まで帰った。
fin.
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