愛されたいと叫ぶ夜

第一話


名前「セリフ」
名前【心の中のセリフ】
〈モノローグ〉
■場面転換



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■真緒が見ている夢(誠司が浮気している夢)からスタート。
どこかのラブホ

誠司が快楽を堪えている苦しそうな顔で四つん這いになって腰を降っている。

誠司「くっ、はっ……凄いな。全部持ってかれちゃいそうだよ」

〈え?〉

顔の見えない女が誠司の下で揺さぶられている。

女「あぁっ、誠司さんっ」
誠司「……っ、可愛い声で名前呼ぶなよ」

〈……え?〉

キスをして、盛り上がる二人。

〈いや、止めて!〉

■高田家寝室 ダブルベット
季節は夏なので半袖パジャマ

真帆「いやあぁぁぁあ!」
真帆バッと目が冷め起き上がる。怯えた顔ではぁはぁ息切れ。額から垂れる汗。

真帆【なっ……夢、か……】
【すごい、汗びっしょりだわ】
額の汗を拭う真帆。

誠司「真帆? どうした? 大丈夫か?」
誠司も真帆の声で起き上がり、心配そうに真帆を覗き込む。

真帆「誠司……うん、大丈夫。ちょっと怖い夢みただけだから。起こしちゃってごめんね」
誠司「水、もってきてあげるから待ってて」
真帆「……うん。ありがとう」

バタンと寝室を出ていく誠司の背中を寂しげに真帆は見つめる。
髪を掻き上げ、ため息をつく真帆。

真帆【どうしてこんな夢、見たんだろう。誠司がそんなことするはずないのに。】
【あぁ、夜に見たドロドロ不倫ドラマに影響でもされちゃったかな】

誠司が水を持ってくる。

誠司「真帆、水持ってきたから飲みな」
受け取りごくごく飲む真帆。

真帆「ぷはぁっ」
全部飲み切った。

誠司「ははっ、すごい飲みっぷり」
優しく笑いながら、ベットに戻る誠司

〈誠司は優しい〉

真帆「すごい喉かわいちゃって。お水ありがとう」
誠司「もう大丈夫そ?」

〈こうして心配そうに私を見つめてくれる〉

真帆「うん、大丈夫。起こしちゃってごめんね」
誠司「大丈夫ならいけど……じゃあ、おやすみ」
もそもそと布団に入り真帆に背を向けて寝る誠司。

真帆「うん、おやすみ」

誠司の背中をさみしげに見つめる真帆。

〈誠司は凄く優しい〉

水を見つめる真帆

〈こうして気を利かせて水を嫌な顔せず持ってきてくれるし、共働きだから家事だってどちらか偏らないようにちゃんとやってくれる。〉

コクンと少し残っていた水を飲み込む

〈こんなにいい旦那はいない。いないのに――〉

真帆【誠司……】

〈こっち向いてよ。〉

誠司に少し手を伸ばして躊躇う真帆。
手を胸の前にもってきてぎゅっと握り締め、俯く。

〈誠司が、遠い――〉


■真帆の職場のデパート化粧品売場

〈葛西百貨店〉

綺羅びやかな店内で真帆がお客さんに接客しているところ。チークを選んでいる。

真帆「このお色、とてもお客様にお似合いです」
営業スマイルでめっちゃ美人オーラ出てる真帆。

〈高田真帆 美容販売部員〉

女客「なんかチークひとつで凄く顔色が明るくなった感じがするわね。これにするわ」
金持ちマダム風なおばさん客

真帆「ありがとうございます。今ご用意致しますね」
女客「高田さんのお陰でいい買い物ができたわ。また来るわね」
真帆「是非、お待ちしております」
女客が買い物をし、満足そうに帰っていく。
嬉しそうにお客を見送る真帆。

ひかり「先輩〜さすがですぅ。お客様のあの笑顔、とっても満足そうでしたね。さすが先輩です。憧れちゃうなぁ」

〈椎名ひかり 美容販売部員〉

真帆の後ろにひょこっと現れるひかり。

真帆「憧れる程ではなないけど、お客様のいい買い物のお手伝いができてよかったわ。ほーら、接客、接客」
ひかり「はぁい。私も頑張りま〜す」
唇を尖らせて戻っていくひかり

真帆【素直な性格……憧れるのは私のほうよ】
ひかりの事をみながら少し眉尻を下げる真帆


■就業時間、外は暗い。

真帆【あ〜すごい浮腫んじゃった。早く帰ってマッサージしないと。あとはレジ締めだけだから15分もかからないわね】

〈高い化粧品を売る私たちは自分たちも商品のように常に綺麗でいなければいけない。
自社の化粧品を使って完璧にメイクを施し、初めてお客様の前に立ち、接客をすることができる。〉

真帆「完璧、か……」

ヒールをはいているので、浮腫んでいる足を擦る真帆。


〈仕事は完璧かもしれないけど、プライベートはズタボロ、だなんて誰にも言えない。〉

きゃあきゃあと外を通る仲良さそうな家族が目に入る。

真帆【仲良さそうな家族。笑顔に溢れて、楽しそう。外食帰りとかかな】
【子供……いいな。羨ましい】

浮かない顔でレジ締めを始める真帆

〈笑顔いっぱいの温かい家庭。憧れていた私の家族像〉

妄想で真帆と誠治と子供が手を繋いでるところを思い浮かべる。

〈私に、誠司に、可愛い子ども。一緒に御飯をたべて、一緒にお風呂に入って、一緒に眠って。そんな平凡な家族を夢見てたのに〉

パリンっと妄想が割れる。
〈完璧には程遠い――〉

ブンブンと顔を振る真帆

真帆【あ〜、マイナス思考になっちゃってる。きっと夜に見た夢のせいよね】

よし!と気合を入れる真帆。

■真帆はいつの間にか更衣室で私服に着替え、デパートから出る

真帆【今日は私が晩ごはん作る日だからなぁ、何にしようかな、生姜焼きとかいいかも】
着替え終わって、外に出ると誠司が待っていた。驚く真帆。

真帆「せ、誠司!? どうしたの!?」
誠司「たまたま真帆と同じ時間だったから一緒に帰ろうと思って。帰ろう」
真帆「ふふ、ありがとう」
誠司が真帆に腕を差し出す。笑って誠司の腕に絡む真帆。道を歩き始める二人。

〈やっぱり、誠司はやさしい〉

真帆「今日の夜ご飯は何にする? 今日は私の担当だから誠司の好きなもの作るよ」
真帆【本当は生姜焼きにしようかなって考えてたけど、誠司の食べたいものにしよう】
誠司「そうだなぁ。じゃあハンバーグがいいな。真帆の作るチーズ入りのやつ」
真帆「オッケー! じゃあチーズinハンバーグとコンソメスープで決まり」
誠司「楽しみだな」

通りすがりの若い女二人組A「わ、美男美女なのにあんな仲良しとか最高夫婦じゃん」
二人組B「本当うやらまし〜」

誠司「仲良し夫婦だって」 
嬉しそうに笑う誠司。真帆も笑って返す。

真帆「しかも美男美女。やっぱり誠司は誰が見たってイケメンなんだよ。職場の子にも先輩羨ましいです〜て言われるもの」
誠司「そんなことないよ。接客業はやっぱり口が上手いね」
真帆「じゃないと接客業なんてできませーん」
笑い合う二人

二人で歩いていると真帆の視界にふとデパートのガラスに貼ってある子供服売り場の家族三人の笑顔のポスターがあり、真帆の視界に入る。

真帆【家族か……】

〈ああ、また考えちゃう〉

誠治「どうした?」
真帆「ううん、なんでもない! 早く帰ろう! お腹すいた!」
誠司「俺も。手伝うから早く帰って飯食べよう」
真帆「手伝ってくれるの? なら早く作れそう。じゃあ誠司にスープお願いしようかな」
誠司「ん、任せといて」

〈いつか、さっきの家族みたいに子供と並んで歩ける、よね?〉

笑いながら帰る二人。

■高田家ダイニングテーブル

真帆の作ったハンバーグが置かれていて、向かい合って食べている所。

真帆「そういえば、愛って私の友達覚えてる?」

ハンバーグを切りながら話す真帆。

誠司「あぁ、大学のときの友達だよね? 結婚式にも来てくれた」
真帆「そうそう、愛ね11月に赤ちゃんが産まれるんだって! 凄いよね〜友達がいつの間にかママになるんだもの。絶対可愛いだろうなぁ」
誠司「だね」
苦笑いしてハンバーグを食べ続ける誠司。
真帆「ねぇ誠司、私たちもそろそろ」
チラッと誠司をみる真帆

誠司「そういえばさ――」
真帆の話にかぶせて、話を逸らす誠司。

〈あ……〉

誠司の話をうんうんと笑顔で聞く真帆。

〈まただ〉
〈子供の話になると必ず話を誠司は逸らす。〉


しゃーっと皿を水で流す真帆。はぁと深い溜息
真帆【誠司は、子ども好きって言ってたと思うんだけどな……】

〈いつからだったろう。私達だって子供が欲しいねって笑顔で話していたのに〉

真帆【はぁ……】溜息
流れる水をぼーっと眺める真帆。

〈さらさらと流れる水のように、彼の私に対する愛もどこかに流れていってしまったんじゃないかと、たまに不安になる〉

■寝室
誠司は布団に入ってスマホをいじっていたけど真帆が入ってきたことに気がつきスマホをサイドテーブルに伏せておいた。

〈隠した?〉

真帆「なに見てたの?」
もぞもぞと布団に入る真帆

誠司「ん、動画。今度なんの料理つくろうかな〜って」
真帆「そうなんだ。え〜なんの料理? 見せてよ」
手をスマホに伸ばす真帆。誠司にそっと手を戻される。
(誠治はEDのことを調べてた)


誠司「もう寝ようと思って消しちゃたよ。ほらもう寝よう」
頭を撫でられ、見つめられる。

〈誠司のこの大きくて温かい手が出会ったときからずっと大好きだ〉

嬉しそうに笑う真帆。

真帆【あ……これって、今日はもしかして】

真帆「誠司……」
艶っぽい顔で誠司に寄る真帆。

誠司「じゃあ、おやすみ」
すっと避けられ、背中を真帆に向けて寝始める誠司。


真帆【あっ……】

〈――なんでよ〉

真帆「……おやすみ」

ベットに座ったまま、誠司の背中を見つめる真帆。

〈近いようで遠い〉

手を伸ばそうとする真帆

〈伸ばせばすぐに手は届くはずなのに、大好きなはずなのに、いつからこの手を伸ばすことが怖くなってしまったんだろう〉

ギュッと手を握りしめる。

〈あの手で触れられたい。心も、身体も満たされたい〉
〈セックスがしたい。〉
〈彼の声で、身体の体温で包まれたい。そしたらこの寂しさも消えてなくなるはずなのに〉

布団に入って誠司のほうを見ながらさみしく背中を見つめる。

真帆【いつからしてないのかな、私達】
【子供だって欲しいのに。誠司に似たら凄い可愛いだろうな……】

真帆、ゆっくり目を瞑る。

〈愛を確かめるわけじゃないけれど、ただ誠司とセックスがしたいだけ――〉
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