クールな御曹司は湧き立つ情欲のままに契約妻を切愛する
自分ではなく父に用事があったなど想像もしておらず、弾かれたように彼を見つめた。

「お父様にも、かな」
その含んだ物言いに、私は何を問えばいいかわからず、彼をとりあえず家の中へと促した。

玄関の土間に先にあがり、膝をついてスリッパを出せば彼は小さく頭を下げた。
そして父の元へ案内しようと思ったが、さっきの状況を思い出す。

「あの、少しだけここでお待ちいただけますか」
あの夕食を片付けなければと、廊下で声をかければ「もちろん」と答えが返ってきた。

開けっ放しになっていた障子を閉めた私を見て、母が食べる手を止めた。
「誰だったの?」

「私がバイトをしている会社の社長がお父さんに会いたいって」
どう説明しても何も伝わらないと思った私は、単刀直入にそれだけを言えば、母は一呼吸置いた後、慌てて食事を片付け始めた。

「お前の会社の社長が私に用事などあるのか?」
「それはわからないけど」
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