クールな御曹司は湧き立つ情欲のままに契約妻を切愛する
「いや、わかってもらえなくてもいいと思ってる」

「え……」
まさかそんな言葉が返ってくるなど思っていなかった私は、言葉を失ってしまう。

「結婚した事実だけがあればそれであの人は何も言えないはずだから」
やはり相手は誰でもよかったことを思い知る。父と仕事をするために、ちょうど目の前にいた私ならば、お金で解決できるし都合がよかったにすぎない。
最近が幸せすぎて、自分の置かれている三ヵ月だけの仮初の妻ということを忘れてはいけない。

こんな悲しそうな表情を見られるわけにはいかず、窓の外の景色に目を向けた。
そのまま、特に会話もなく数十分走ると閑静な住宅街に入った。

周りは見たこともないような豪邸ばかりが立つエリアで、私はポカンとしながら流れる家並みを見ていた。

「もうつくよ」
その声と同時に見えたのは高い塀と、その向こうには木々だった。
< 70 / 176 >

この作品をシェア

pagetop