クールな御曹司は湧き立つ情欲のままに契約妻を切愛する
それに父は相変わらずだ。母から農家に通い、研究室に閉じこもってばかりだと聞く。

父のお茶の技術を期待してくれている凛久さんとの仕事も、経営のことも何を考えているのかわからない。

これでは私は何も役に立ってない。凛久さんも結婚をすればいいと思っていただけだろうし、お父様からあんな辛辣なことを言われるならば、私と勢いで結婚をしてしまったことを今後悔しているはずだ。

何も言わずハンドルを握る彼を、ちらりとみるもサングラスの奥の瞳は見えない。
もっと違う人が開いてだったら。凛久さんの役に立てる人間だったら。
そんな思いが私の心を蝕んでいく。

静かにマンションの地下駐車場に車を止めると、凛久さんがサングラス越しに私を見る。

「帰ろう」
いつの間にか当たり前のように、ここが私たちの家のような錯覚をしていた。
帰ろうと言ってくれる彼の気持ちはとても嬉しいが、このままでいいわけがない。
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