隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
新人研修
「真面目」なんて、褒めてないでしょ。
地味で堅物に見えるからって、褒めるふりして見下さないでほしい。
・・・
「新入社員? ですか? 」
「うん。今頃ね。春に入ったばっかりなのに、景気いいよな。俺たちの給料にも反映してほしいよ」
主任はそう嘆いたけど、私の「?」の理由はこの時期に新入社員が来ることでも、ましてや主任の給料が上がらないことでもなかった。
知りたいのは、それでどうして私が主任のデスクまで呼び出されたのかってことだ。
「それでさ。今、他のリーダーや勤続年数長いメンバーって、この間入った若い子教えるのに手一杯で。悪いんだけど、浪川さんお願いできるかな」
「私ですか? ……あの、私もまだそんなに長くいるわけじゃないし……」
――断れるものなら断りたいんですけど、いいですか?
「大丈夫。浪川さんなら真面目だし、浮き足立ったりしないから安心だし。いやほら、最近の若い子に教えるって難しいだろ? 」
若い子、若い子。
つまり、それなりに年齢いってて、断らないだろう人間に押しつけたいと。
「厳しすぎてもダメだし、優しすぎて研修進まなくても困るし。その、おかしな雰囲気になられてもね。いや、別に禁止してるわけじゃないけど」
つまり、つまり。
私だったら、おかしな間違いが起きないだろうと。
頼みごとしてる相手に、あんまり失礼では??
「じゃ、よろしく!! 」
「………」
こんな余計なことを一言も二言も貰うなら、「研修担当ね」って命令された方が、まだましだ。
・・・
「……あの。すみません、これは……」
「あっ……はい。これは、こっちのファイルに……」
びっくりした。
一体、いつからそこに立ってたんだろう。
気がつかなくて悪かったけど、声掛けてくれていいのに。
(……って、だめだめ)
新人さんなんだし、声掛けづらいに決まってる。
集中しきっていて、怖い顔してたのかも。
質問するのって、勇気がいるよね。
(……でもな〜〜…、)
「浪川さん、すみません……」
「はい? 」
さっきのファイルもそれも、もう何度目だろう。
自分の新人時代のことを思い出して、それを顔に出さないように、そんなこと思わないようにしてみるけど。
「浪川さん……」
それにしても、ちょっと。
(……ノート、開いてみてくれないかなぁ……)
――忍耐が必要かも。
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