隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
・・・
「送ってくれなくてもいいのに……」
何度もそう言ったけど、戸田くんは「送るまでデートだから」って譲らなかった。
「そんなこと言うと、俺の家に連れて帰るよ」
押し黙る私に笑うってことは、そう本気じゃないのかな。
(……なら、この手は……)
何だろう。
今日一日、並んでる時はずっと繋いでる気がする。
「……あのさ、碧子さん」
私の家が近づくに連れ、場所を知らないはずの彼の靴音が一歩一歩、妙に間延びしてる。
「あれから、何も上げてないね。どうして? 」
「見ないでってば……」
だって、忙しかった。
戸田くんが来てから、この週末まで。
本当にあっという間で、他に何も考えられなくて……考える余裕もなかった。
それに、見られてるかもって思ったら迂闊なこと上げれない。
「心配されてたじゃん。そろそろ、何か載せないと」
「……見られてるって思ったら、無理」
繋いだ手に少しだけ力が入って、つんのめりそうになる。
「からかったりしないから、今日のこと書いて。あの映画、一緒に見てきたって」
私は、何に驚いて振り返ったんだろう。
「彼氏って書いてくれたら嬉しいけど……無理なの分かってるから。誰となんて書かなくてもいい。だから……一緒に見れる人がいたって。それだけ」
もうからかわないって、言われたことなのか。
「……それが、お願い? 」
「うん。あと、もうひとつ」
並んで歩いてたはずの彼が、なぜか後ろにいたことか。それとも。
「名前、呼んでよ。二人の時だけでいいから」
――そんな、理解不能なくらい、小さなお願いのせいか。
「だめ? そんなに嫌……? 」
少し考えたけど、やっぱり首を振った。
「戸田くんは、私をどうしたいの? ……また、週末になったら、私を呼ぶの。バラされたくなかったらって」
彼の要求は、めちゃくちゃだったりあり得ないほど酷かったり――そのくせ、急にこんなふうに小さく可愛いものになる。
心も身体も突き落とされた後、いつもそんなお願いがくるから。
ただの同僚といきなりデートしたり手を繋いだり、仲良くなってもないのに「名前呼んで」なんて、本当だったらそれだって同じくらいあり得ないのが、些細なことに思えてしまう。
「……うん。もう、碧子さんに会えないのは、無理。もう知っちゃったのに、触れないでいられない」
手を取られたまま、立ち止まった彼との間にできた僅かな距離を、くんっと引いて。
「……っ」
「でも……どうしたいって。付き合いたいんだよ」
引き寄せられた反動でふらつく前に、ぎゅっと抱きしめられた。
「……そ、んなこと言われ」
「……週末までに呼んでね。名前」
(……キス……)
――どうして、おでこなの。
また脅迫するって言いながら、強引なキスもただ触れるだけのキスすら、唇にはしないで。
そっと頬を包んだのに、優しく額に口づけたのはどうして。
『付き合いたいんだよ』
『好き。碧子さん』
腕がするりと抜けた。
もしかしたら、今までで一番あっさりした解放。
それなのに私は、一人になってもマンションの前で立ち尽くしていた。