隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
ちょっとだけ気まずそうに笑って、こっちに歩いてくる。
「あんなの、放っといて……」
「ほっとけるわけないじゃん。好きな子のこと悪く言われて、通り過ぎたりできない」
誰が聞いてるかも分からない場所で、そうはっきりと言われて。
注意しようと口を開いたのに、何も出てこなかった。
「……キャラは? 」
「ね、どうしよ。でもさ、いくら内気だからって、好きな子にあんなことされたら怒るに決まってるし。いいんじゃない」
すとんと隣に座って、優しく見下ろしてくる。
「めんどくさいね。ごめん。嫌な思いさせて。……ほんと、どうにかなんないかな。この顔」
ポンポンと頭を撫でられても、止めることができない。
「……だから、そうじゃないよ。戸田くんがもっと大人っぽくても、実際歳が上だったとしても関係ない。あれは、ああいうものなの」
「……それ、ずっと我慢してくの? しんど。でも、ありがと」
それどころか、「頭ポンポン」が必要なのは、彼の方にも見えてしまう。
「え? 」
「歳も見た目も関係ないって。碧子さんが言ってくれたの……すごく嬉しい」
今のは寧ろ、私が嫌な思いさせたのに。
私が若かったら違ったのかも――そう思わせないでくれる。
(……って、違う違う……!)
なに、引っ張られてるの。
別に、歳も何も似合うも似合わないも関係ない。
脅迫されて、ただ身体だけなんだから。
「……だ、から。私といても、いいことな……」
そんな嫌な思いしてまで、私である必要がない。
誰か、もう少し若いだけでも、きっとお似合いって言われることができる――……。
「……それ、誰にとって? 」
コーヒーを飲むことを、目を逸らす理由にしたのに。
口の中になんてちっとも入ってないことを知ってるみたいに、やや強引に缶を取り上げられてしまう。
「え」
「だから、いいことないって誰に。俺にとっては、いいことしかないよ」
他に誰もいない部屋。
コン……と缶をテーブルに置く音が響くくらい、戸田くんの声しかしない。
「碧子さんにとっても、そうだったらいいのに。始まりはめちゃくちゃだし最低だけど……それでも、そうなる為に努力する。信じられないかもしれないけど、俺、そう思ってるから」
手を握られて、慌ててドアの方を確認する私に意地悪っぽく笑って。
あっという間に指を絡めた後、そっとテーブルの下に仕舞った。
「それにね。嬉しいけど、やっぱり俺は、碧子さんとは違う意見。……碧子さんが綺麗だから、俺が全然追いついてないの。ちゃんと分かってる。頑張る」
本人の意に反して、その言い方は可愛い。
でも、それ自体は悪いことじゃないし、魅力だと思う。
何より、そこまで言ってくれるほど慕ってくれてることは――それだけ見れば、嬉しい、と思う。
「もう行くね。さすがに、二人で一緒に帰るとあれだし。……って、それも変な話だと思うけど」
一度きゅっと握って、見えないところで恋人繋ぎしてるって実感させられる。
何もかも秘密でできた私たちは、普通にしろという方が無理で――端から見ると、逆に普通の恋人に見えたりするのかな。
「……うん」
「後で」なんて、言えなかった。
名残惜しそうにしてるのが分かるのに、ただ見送るだけ。
でも。
『この前いってた映画、見てきました! 』
――何て言っていいか分からない、謎の関係の人と。
(そんなお願い、くらい)
聞いてあげる。
それだけ投稿するのにも、自分を咎める声がまだ消えないけど。
(……本当は、私も……)
――怒ってくれて、嬉しかったから。