隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
「浪川さん、ダブルチェックありがとうございました。終わってないのあったら貰います」
「あ、うん。ありがと」
(仕事は、ちゃんとやってくれるようになったな)
集中してる時は、「戸田くん」の演技もほぼしてない気もする。
どっちかと言うと、素の一穂くんの要素が強い気も――……。
「……そんなに見られたら、また言われるよ? 俺も、ちょっかい出さずにいられなくなっちゃうし。誘惑しないで」
視線をパソコンに向けたまま、ふっと笑われて慌てて私も目を正面に戻す。
――と、向かいの方から、何か微妙にひそっと言われた。
「ほら、やっぱり」
「えー。あの歳で色仕掛け? 」
(余計なお世話すぎる……)
「自分差し置いてこんな年上に」ってことなんだろうな。
今までの全部ひっくるめて、要約すると。
「浪川さん」
「はい? 」
よかった、一穂くんの耳には入ってない。
彼はああ言ってくれたけど、やっぱりこういうスキャンダル的なものは、彼の今後によくない――……。
「なんか、すごい嬉しい噂広まってますけど……ご迷惑お掛けしてすみません」
「…………え? 」
「僕は嬉しいんですけどね。まあ、さすがに会議室? 倉庫? でしたっけ。そんなとこ選びませんけど」
「は…………? 」
何言ってるの。
「というか、失礼すぎません? 仕事中隠れてって……どんだけ早いと思われてるんでしょうね、僕。憧れの人相手に、あんまりです」
(……だから、何言ってんの……!? )
「ってことで、かなり頭にきてるから。……何かあったら、すぐ言ってくださいね。これ以上、浪川さんに嫌な思いさせる気、ないので」
「……え、いや、あの……」
今度こそ、キャラ崩壊してない?
それも一部の人だけじゃない。
執務室、部署メンバー全員。
絶対、主任のデスクまで聞こえてる。
「はい。これも終わりました」
「ありが……」
書類を受け取ったのに、なぜか手を離してくれない。
恐る恐る上目で窺うと、彼の目に捕まって逃げられなくなる。
「絶対ですよ。分かりました? 」
「え、いや、だから……」
「……分かり、ました? 」
キャラどころか、素でしょ。
敬語なだけで、二人きりの時の彼と変わらない。
(会社では、攻めろとか言ってたくせに)
「……………分かりました」
――会社でも、攻められてるんですけど。
「あ、それと」
(もういいってば……! それくらいに……)
「僕は、浪川さんなら、色仕掛け大歓迎ですよ。……って、本人思ってるんですけどね。ほんと失礼で余計なお世話」
――して、お願い。