隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)




「……ごめん……」


返ってくるキスが止まって、私はどんな顔をしてたんだろう。


「っ、ち、がう……。そうじゃない、逆! ……っていうか、そんな顔してくれんの。……やばい……」

「そ、そんなって……」


俯かせてよ。
目、閉じさせて。
そうやって愛しそうに撫でながら、しっかり固定しないで。


「そんな。……キスやめられて、どうしたのかなって不安そうな顔。それって、嫌だったら……嫌いだったらしないよね。……あのさ。笑わないでよ。って言っても笑うだろうけど、笑わないで」


照れたのは私だったのに、そんなこと言われたら悪戯心が芽生えてしまう。


「……たぶん、恋人みたいな顔なんだけど……」


そんなに真っ赤になるくらい、恥ずかしいらしいのに。
そう思うと、必死で笑うのを我慢するしかない――けど。


「たぶん? 」

「たぶん。だって俺、あんまりちゃんと付き合ったことないから。言ったとおり、ほぼ童貞」

「それは嘘だ」

「それも言った。ほぼをどのくらい、どんなふうに取るかによる。はぐらかさないでよ。聞きたいの、そこじゃない。……碧子さん」


それでも聞きたい、知りたい――その気持ちを思うと、少し広角が上がるだけで、可笑しいとはとても思えなかった。


「合ってる……んだよね。嬉しいけど、ちゃんと聞かせて。俺は好きだよ。頭おかしいし、脅迫なんて犯罪だし、でも、頭おかしいから」

「……そこ、省こう? 」


もう「好き」だって言ってしまおうかと思ったけど、なぜか彼の方が告白してくれてる最中のようだから、ちょっと待ってみる。


「……から……言ったみたいに、碧子さんの視界に入らないくらいなら、その方がましだって思っちゃって。もちろん、好かれる努力はするつもりでいたけど、やっぱり拒まれるとショックで意地悪したりもしたし……ごめん。謝れることですらないけど。それでも、ごめん」


見上げたままで、首が辛くなってきた。


「碧子さんが好き。……そんな顔見ちゃったら、返事聞くまでキスできなくなる……」

「……脅迫? 」

「そうかもしれないけど、きっと俺のが我慢してるんだよ。でも、碧子さんがそう思うってことは……? 」


――ことは。


「……すき……」


言った瞬間――じゃなく。
少し待っても無反応で、少し笑う。


「……馬鹿でしょ。最低だって思ったし、今でもそれは変わらない。なのに、好きになるなんて、自分でも認められなかったけど」

「……うん。でも俺は嬉しいし、幸せ。そんな碧子さんを見下したりしないし、できるわけない」


やっと始まったのは、予想していた優しいキスじゃなかった。


「俺のせいだよ。碧子さんが絆されたのも、嫌がれなくなったのも、好きになった気がするのも。……今、キスされたくなったって錯覚してるのも、全部」


(……そっちだって馬鹿だ)


錯覚なんかじゃない。
「気がした」んじゃない。

私は一穂くんが好きで、だから。
――キスされるまでの間、私の方が待って、我慢してた。








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