隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
「何でもいいよ。やっぱり付き合うのやめようとか、年下じゃ嫌だとか……そういうんじゃなかったら」
何でもいいの?
聞こうか聞くまいかほんの一瞬躊躇してる間に、先回りしてくれた。
「何もないなんて言わないでね。恋人にされたいこと、まったくないなんてないでしょう。……やっぱまだ、碧子さんにとって、ただのお子さまだったなんて嫌だから……聞かせてほしい。それだって、幼稚な自己満足だって分かってるけど」
『碧子さんを喜ばせたい』
『できることしたい』
(……本気、なんだな)
方法はどうあれ、好きでいてくれる気持ちも、好かれたいって想いも、どうにか大切にしようって努力も。
「ひとつあるけど……絶対聞いてよ」
「……う。……俺にできることだよ。年上になれとか、こそこそ隠れて付き合うとか、ちょっとは控えめにしろとかはなし」
「最後のは」
「なし。無理。一回控えめにしたら、その次大変なことになっても知らないよ。これでも抑えてる」
引っ掛かりはするものの、貴重なお願いごとをそれに消費するつもりはなかった。
というより、本当は言われてすぐに思いついてたの。
「じゃあ……」
「ん? 」
何にしようかな、なんて。
迷う演技も、置いた時間だって要らなかった。
「……何で好きになってくれたのか、教えて」
ただ、恥ずかしいだけ。
はぐらかされるたび、本当はずっと知りたかった。
「……そんなことでいいの」
彼はそう言ったけど、同じくその間がもしかして嫌なのかなって不安になる。
「たぶん、すごいドン引くよ。それでも? 」
「…………うん」
真顔で言われて、「世の中、知らない方がいいこともある」気がしたけど、それでも。
「言ったよね。やっぱり別れるとか、なしだよ? 」
「言わないってば」
「約束」って、両頬を包まれる。
逃げ場をなくした目は、簡単に一穂くんの眼差しに捕まって、私はもちろんこくんと頷くしかない。
「馬鹿だな、碧子さんは。俺がこんなこと言うなんて、滅多にないかもよ? なのに、そんなこと」
自分だって、小さな要求ばかりのくせに。
馬鹿だと言いながら、ちっとも馬鹿にした様子じゃない声、触れ方。
頬から顎、耳朶へと往復する親指はあまりに愛しそうで、恥ずかしさで途方に暮れるほど優しい。
「俺ね。入社前から、ずっと碧子さんのこと見てたんだ」
「え……ど、どこで……」
ほら、引いたでしょう。
でも、まだ続きあるんだよ。
そう真っ直ぐに見つめられて、遮りそうになったのを引っ込めた。
「……写真とか」
「え……? 」
共通の友達なんているわけない。
私の写真なんて、一体どこで――……。
(…………ま、まさか……………)
「……そうだよ。碧子さんのSNS、ずっと追ってた。だから、あの日碧子さんがスマホを落としたりしなくても、俺、最初から知ってたんだ」
――あのアカウントが、碧子さんだって。