隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
「碧子さん、顔は出してなかったから、もちろん確証はなかったけど。結構分かるもんだよ」
気をつけてって言いそうになったのか、苦笑いして。
「そもそもあのアカウント、よく見つけたね。興味もないと思うのに」
「あのフォロワー数でよく言うよ。興味は……うーん、最初はあんまりなかったけど。でも、必要性はあったから、知らないうちに上がってきてたんだろうね」
「必要性? 」
一穂くんに、そんな参考になりそうなこと上げたっけ。
「……うん。俺さ、もともとは細身なくらいだったけど、いろいろあって、一時期すごく太ったんだよ。だから、無意識のうちにそういうの検索したりして、いつの間にか碧子さんに辿り着いてたんだと思う」
「え? 」
さらっと言われたことにぽかんとしてるのに、手はぺたぺた彼の胸やお腹を触ってた。
「頑張ったでしょー。これ、碧子さんに会う為だからね。すごくない? それと同じくらい、頭やばいと自分でも思うけどね」
ちょっとだけされるがままでいてくれたけど、「おしまい」って両手を握られてしまった。
「まさか、近く……自分の行動圏内にいるなんて。初めて見かけた時は、そりゃまさか本人だとは信じられなかったけど……似てるって思ったんだ。これもあったし」
鎖骨のところのホクロ。
そっと指が滑ったのがくすぐったくて、身を捩った。
「……で、まあ、後つけて。会社も分かったしさ」
「……家もでしょ」
「そりゃあね。会社もだけど、家の方が知りたかったよね。え、なんで分かったの」
(なんで、そんなの当たり前でしょ、みたいな返事になるの……)
「初めて送ってくれた時に変だと思った。近所まで来たら、もうすぐ着くの知ってるみたいな歩き方だったから」
「あれ。気をつけてたんだけどな。……どうしても、名残惜しくなっちゃったから、仕方ないか」
そんな感じだった。
だから、変だなって。
場所を知らなければ、歩幅が狭くなったり、少しずつ歩くペースが遅くなったりしない。
「……甘くしてごまかさないで……! 」
「バレた。……でも、事実だよ」
両手、捕まったまま。
一穂くんの頬へ持っていかれて、余計に照れてしまう。
「ごめんね。本当のこと、いきなり話したら……普通に怖いでしょう。今だって逃げないでくれてるけど、気持ち悪い、よね」
「……脅迫したことは許さない。尾行もしないで」
「……うん」
重なっていた手が離れようとしたのが分かって、そうはさせずに彼の両頬を挟む。
「もう必要ないでしょ。脅すのも、尾行したりするのも」
「……え……」
頬をむぎゅっと押すと、心底びっくりして何が何だか分からない――そんな顔して。
絶対のお願いなんて言いながら、本当はそんな覚悟してたのかな。
「付き合ってるのにそんなことしたら、別れるしかなくなる。だから、しないで」
「……っ、うん。分かっ、た……しない。しないから……彼氏でいていい? 」
また甘く懇願されて、慌てて手を引っ込めようとしたけど間に合わなかった。
頬に触れさせたままの手は、嬉しくて信じられなくて、でも最高に幸せ――見てる私が自惚れだって言えないほど、そんなふうに包んでくる。
「……う、うん……っ」
「ありがとう。……ね、碧子さん。言ったよね、一目惚れだって。嘘じゃない。本当だけど……実際碧子さんに会って、話して、いろんなとこ見て。……あれが別人でもいいかなって思ってたんだ」
それ、今するのはどうして。
指一本一本に口づけて、10じゃ足りないって今度は人差し指を咥えられて。
「俺は碧子さんが好きなの。俺は、碧子さんといれるなら、何だってできるんだよ。碧子さんが一緒にいてくれる為なら、何だってできる。もっと好かれるように頑張る。だから、碧子さん……」
――俺を不安にさせないでよ。