隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
不安になるのは、私だって同じなのにな。
「大郷? だっけ。何なの、急に。今まで動かなかったくせに。俺はずっと碧子さんに憧れてて、会えたのだってもう運命だとしか思えないくらい偶然で、それでも恋愛対象に入れなかったのに」
「それは……言ったじゃない。そんなもんだよ。地味な女が急に噂で目立って、気になっただけ」
「それで同じスタートラインに立てんの? あいつだって碧子さんより年下だけど、俺よりは年上だってだけで」
指先に舌が触れていたのは、流してしまってた。
嫉妬や不安が伝わってきて、それが甘い嘘じゃないと分かってるから。
でも。
「俺は“そんなもん”なんかじゃない。本気で好きなんだよ。それでも、恋愛対象の枠にずっと入れてもらえなかったのに……他の男なんか、中に入れないでよ」
少し噛まれて、さすがに一穂くんの口内で指が跳ねた。
「他の男、碧子さんのなかにいれないで」
ピクッとした意味を探るように、閉じてた瞼がゆっくり開いて黒目だけで見上げられる。
「碧子さんにその気がなくても、警戒してなかったら、むこうは勝手に入ってけるんだよ。こじ開けて、我がもの顔で居座って……ぐちゃぐちゃにできるんだから」
(な……んの話を……)
いつもの強請るような上目遣いとは、まるで違う。
一穂くんこそ、押し入ろうとする寸前に止まったような目をしてる。
「……それ、経験談? 」
「かも。碧子さん、何だかんだで優しいから」
優しくなんかない。
別に、同情して付き合ってるんじゃない。
「一穂くんしか入れてない。誰でも気軽に入れるみたいな言い方しないで」
「……うん」
怒ってるのに。
そんなに嬉しそうに笑うの、やめてほしい。
「で、でもさ。顔が分からないのに、本当によく分かったよね。会社が先ってことは、あんな地味にしてたのに」
「見ようと思って見れば、誰でも分かるって。顔出ししてないって言っても、微妙にちょっと写り込んでるのもあったし。……本当に毎日見てて。憧れたし、参考にして体重戻って感謝もしたし。最初はそれだけだったけど、いつの間にか変な気分になっちゃった」
そうかな。
この近くで、一体どれだけの人があれを見てるのか分からないけど。
当たり前だけど、今まで声をかけられたことなんてない。
だから、一穂くんはよっぽど――……。
「元気ない感じだったら、心配になって。いいことがあったぽかったら、男がいるのかなってなんかモヤモヤしたり。スタイル分かる写真見て、ただ格好いいとか綺麗とか思ってたのが……」
ずっと、好きでいてくれたんだと思う。
自分で戸惑って、きっとおかしいって何度も否定しようとしたんだと思う。
最後を言い淀んだのが彼らしくなくて、それを裏づけてる気がして。
「碧子さん自身がどう思ってるにしろ、俺のなかで区別なんかない。どう見たって、同一人物だよ。俺を変えてくれた人が、ずっと憧れてた人が目の前にいる。他の男もそうなのかなって思ったら……止まんなかった」
――ごめんね。
脅迫への謝罪なら、もう受け取らなくていいと思ったのに。
――愛してるって言わせて。
「まともな頭なら、繋がんないよね。でも俺には、そうとしか言えない」
「愛してる」の他に、理由を説明できる言葉、他にないんだ。