隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
「重い? ……知ってる。脅迫されたのに好きになったことに碧子さんのが罪悪感あって、それ以上の気持ちに踏み込めないのも分かってる」
好きになったのは事実。
それを認めても、まだ何かに歯止めがかかってしまう。
「それでもいい。碧子さんが俺を見てくれてる。好きって言ってくれる。……俺ね、すごい幸せ」
いいんだよ。
そんな顔してても。
付き合えて、二人でベッドにいても。
「嬉しい」だけじゃない、複雑な顔してたって――……。
「碧子さんに、初めて会った日も思った。あ、本当に実在してたんたって。動いて喋って、こんな声でこんなふうに拗ねたり笑ったりするんだって。……俺のこと見て、認識してくれてる。それだけで」
――いいんだ。俺は本当に嬉しかったから。
「……だったのにね」
目尻に触れたのは、どうしてだろう。
私、泣いてないよ。
話自体はめちゃくちゃなはずなのに、ひたすら切なくて胸がきゅっと悲鳴を上げそうになるけど。
「っていうか、碧子さん。もうエロい写真上げるの、禁止。分かったでしょう。まともな感覚のやつだけが見てるとは限らないんだからね。危ないよ」
「え、ろくない……! 」
きっと、それが正解。
でも、上手くできなかった。
笑ったのは、期待どおりの抗議をされたからなのか。
それとも、それが下手くそすぎたからなのかな。
「……頑張ったんだね」
胸も腹筋も。
もう一度触れても、まったく太ってた感じはしない。
「ん……そんな碧子さん見てたらね。それにやっぱり……いつか会えたらって。さすがに俺だって、そんなのあり得ないって思ったけど。……なのに、頑張っちゃった。実際見かけてからは、本気で絞ったし」
「……そっか。すごいと思う。男の人だと、また鍛え方違うかもしれないし。大変だったよね」
そんなことしなくても……一瞬でてきた言葉は、言うべきじゃないと思った。
本当にすごい努力なはずだし、折れそうになる気持ちだって分かる。
「そうだね。でも、やっぱりやってよかった。碧子さんに会えてから本格的に始めたんじゃ、遅すぎたし。……こら。男をそんなにぺたぺた触らないの。碧子さんは何ともなくても、俺は……」
そんな、ものすごい確率の為に。
絶対あり得ないと思いながら、それでも頑張らずにはいられなかったなんて。
そんな告白されちゃったら。
(……私も、気をつけなくちゃな)
歳とかで不貞腐れてる場合じゃない。
「ほら、もうやめ……」
手を捕まえられた拍子に、少し傾いて。
「……っ、ごめ……」
胸の尖端が彼の胸を掠め――なぜか、謝られた。
「だ、から……言ったのに。碧子さんは平気でも、俺はすぐこんな……」
「平気になんてならないよ」
更に胸に寄ると逃げるように腰を引くから、ちょっとムッとしてぴったりくっついた。
「セックスしたからって、付き合ったからって……触れるのもただのキスだって、平気になんてならない」
首筋が赤いのが愛しい。
私が全然平気じゃないのも、彼が反応するのにそう感じるのも。
それはもう、好きという感情の上にしか成り立たない。
「……酷いよ。我慢してたのに」
誘ったのは私だという自覚はあるのに、いざ限界だと囁かれて身体が縮こまる。
「言ってみたかったんだけどさ」
頭を撫でて。
そっと額に口づけて。
「……優しくするね」
我慢してたと言うわりに、そうして触れてゆっくりキスから始まろうとする一穂くんは。
ベタな台詞なんかよりずっと、二度目は本当に優しかった。