隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
・・・
(……週末だからって、やりすぎ……!! )
……って、そうじゃない。
いや、じゃなくない。
先週はまあ、付き合った記念というか、お互い気持ちも昂ぶってたとして。
毎週こんなだと、私こそ持たない気がする。
心地いい疲労感というと可愛いすぎる言い方で、実のところ一人の部屋に帰ってきた後は、ぐっすり寝てしまうどころか寝坊してこのざまだ。
ダッシュしたのは、執務室のドアの前まで。
焦って走って、乱れた呼吸を整えてから部屋に入る。
「おはようございます」
一穂くんの声も混じった、みんなからの挨拶を聞きながらパソコンを起動して、少しふらりとしながら席についた。
「全然走ることないのに。碧子さんにしては遅いってだけで、まだ余裕じゃない」
「準備ってものが……」
脳に酸素が足りてない。
それでも何か違和感を覚えたけど、渇いた喉を潤すのが先だと水に手を伸ばし――……。
(……………え? )
「……眼鏡は? 」
(え……私、今……)
「ん? もう要らないかなって。コンタクトの上からする意味、特にないし」
(…………私…………)
「え……!? 」
キャップを外したままのボトルが倒れそうになって、慌ててキャッチして――恐る恐る視線だけ上げた先に、ものすごく意地悪な顔した一穂くんがいる。
「お疲れさま、碧子さん」
「……っ、ば……」
「馬鹿」なんてあまりに脆弱すぎる文句すら、呼吸優先の私は発することができない。
「あ。違った。おはよーございます」
「……!! 」
絶っっ対、わざと。
この世に、こんな100%以上のことってある?
バレたなら、もう仕方ない。
足蹴りで済ませる理由なんてあるものか。
「……あー、はい。もう、二人とも隠す気ないみたいだから。まあ、面倒だから公認ってことで。ここまでくると噂にもならないし。この件、終了ね」
他に解決方法なんてないし、あっても知りたくないって様子の主任の朝礼がはじまり。
側にあったファイルを掴んで振り落とそうとした力のもって行き場もなく、その日が――私たちの公開社内恋愛がスタートした。
「あちこち牽制するので忙しくて、間違っちゃった。これからもよろしくね、先輩」
――夜とか週末だけじゃなくて、ずっと攻めちゃうかもだけど。
――そんな、宣言とともに。