隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)










虚ろに何かを考えてる目が、心配になる。


「なに? 碧子さんだって、もう隠す気さらさらないよね。嬉しい」


隣でチラチラ――わりとずっと様子を窺ってると、気づかないふりやめたって笑われてしまった。


「全員の前でバラされて、隠せることなんかないじゃない。……その」


「大丈夫? 」はプライドを傷つけてしまいそうで聞けなかった。
もちろん、「大郷さんに何て言われたの? 」も。


「……まあね。気分は良くないよ。彼女口説かれてんのに、当たり前。でも別に、碧子さんに怒ってるんじゃないし。ごめんね、ガキで」

「……そんなことな」

「うん。碧子さんが知ってるとおり、俺もオトナ」


「うん」って引き取られたのに、寧ろ突っぱねられた気がして、それ以上何も言えなかった。
意味深に言ったのだって絶対にわざとで、今日ばかりは照れることもできない。


(何も起こらないよ、本当に)


その気持ちが伝わればいいのに――そう願いながら、もう一度上目で彼の顔を捉えたけど。
一穂くんは、もうこっちを見てなんかなかった。





・・・




幸い、ウォータサーバーはもう一台ある。
ちょっと遠いけど、歩けない距離のはずもない。
別に大郷さんを避けたいわけじゃないけど、会うと分かっていて通る必要もないし。
こうなったら大郷さんのチーム付近は極力近づかないようにしよう――……。


「あ、やっぱり避けられてた」


思わずぎょっとして、すごい顔してたんだと思う。
そんなのお見通しだと笑う大郷さんを見て、一体どうすればいいんだろう。


「もしかして、と思って。すみません、俺まで追いかけちゃって」

「……あの……どうして? ……その、確かに避けてたんですが」


二台あるということは、二台しかないわけで。
というか、狭い社内、みんながほぼルーティンな動きをしていれば、誰かを探すなんて簡単だ。


「はっきり認められるとは思いませんでした。でも、ですよね。……不快でした? 」


――ただ、そんなことする必要ある?


「というか……彼の気持ちも分かるので。わざわざ嫌がってることしなくてもいいかなって」

「つまり、俺って浪川さんにとって害がないんですね。それはそれで、結構ショックかな」

「……大郷さん」


ふと息を吐いてすぐ、すっと吸い込んで覚悟する。
自意識過剰だって、誰もそんなつもりじゃないって言われるかもしれなくても、これをこれ以上長引かせない方がいい。


「噂と事実が、どれだけ同じか知らないですけど。私、本当に付き合ってるんです」


もしかしたら、彼に遊ばれてるとか、そんなふうに噂が変化してるのかも。
演技をやめてからの一穂くんだと特に、かなり年上の私が相手だとそう見えるのも分かる。癪だけど。


「知ってます。それでも、俺も」


――本当に、俺ならそんな思いさせないなって思ってるんです。








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