隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
ごはん食べて、シャワー浴びて。
次は何するんだろうってそわそわしてる私を、宥めるみたいにそっと抱きしめた。
「可愛い」
だって、彼氏が初めて家に来たんだ。
それも夜中――そんなことを思えるなんて、いつぶりだろう。
「襲われないと落ち着かない? 」
そんな弄り方にも、カッとなることもなくて。
じわじわ頬が熱くなって、ゆっくり身体の芯を侵食してく。
「……みたい」
一穂くんを「どうかしてる」なんて、もう言えないな。
私こそ、頭どうかしてるというより、理性や羞恥心が負けまくって普通じゃない。
「おいで」
それには反応することなく誘われた先はベッドだったけど、そんな雰囲気じゃないことは明らかだ。
「ごめんね。着替えとかなくて」
「ある方が問題。今度置いとけばいいよ。……碧子さん」
胸に逃げたがる私を捕まえて、顔を上げさせた。
「どうしてほしい? 」
今度はまったくからかってる様子もなく、無表情に近い顔でじっと見つめてくる。
「何も聞かないで、このまま抱いた方がいいならそうする。……俺に、何を望んでる? 」
かあっと頬に集まった熱が、息を吸うたび喉や胸まで焼いていく気がするほど、熱くて熱くて呼吸困難になりそう。
「した方がいいなら、言って。怒らないし、乱暴も意地悪もしない。だから、本当のこと言っていいよ」
でも、真剣な眼差しから逃げるのだけはダメだと思った。
「……両方はだめ? 」
意図せず、いつもの彼みたいな言い方になった。
「いいよ」
笑って、髪を梳かれて。
やっと、胸に顔を埋めることができて。
初めて、誰かと過去を振り返ろうとしてる。
・・・
「え、ダイエット後なの? じゃあ、結構最近なんだ」
「うん。私もあの会社長くなくて。だから、一穂くんの研修担当になったの、すごく不思議な縁だよね」
少し苦い顔をしたから、そんなことを言ってみる。
「まあ、入社したのは偶然でもなんでもないんだけどね。……なら、未練ありまくるんだ。じゃなきゃ、会社まで押しかけないし」
「まさか。だって……」
振られたのは私の方だ。
それでよかったとその後すぐ思えたけど、自分の舞い上がり具合と見る目のなさへの嫌悪は、それからしばらく煮えたぎったままだった。
今でも後悔はしてる。
でも、心を占める割合はほぼゼロに近いところまでこれたのに。
「別に、好きになったわけじゃないのにね。告白されて……ダイエットの成果だって思って、そんなことで気分が良くなって付き合ったけど」
『……なんだ。やっぱり、つまんない女は変わんないか』
(……わざわざ、手に入れた写真取っとくなんてご苦労さま)
太ってた時の写真を見せられながら、そんなことを思う余裕があるあたり、私も馬鹿だったんだ。
彼氏だった人や、写真を渡したであろう、友達というかただの知人に対して泣き喚くことすらできない。
つまり、たったそれだけの感情。
それを、優越感に浸る為だけに、昔の自分も努力して手に入れた自分も売り渡して。
大体、優越感に酔うなんて、その相手だって。
――自分なのに。