隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
「一回、迎えに来てくれたんだったかな。そんなのよく覚えてたし、今になってどうしたんだろうね。でも、私も思い出した」
ほら、笑ってる。
馬鹿にされたことへの怒りはあっても、捨てられた悲しみはわりと早くから手放していた。
「性格は、なかなか変わらないよね。確かに痩せたし、それでも落としたいことが落ちなかったり、減ってほしくないとこが減ったり。苦労して、今の自分があるけど、でも」
――それをつまらないままだと言われて、別れた後一人になった今でさえ、一度も言い返せたことがない。
「碧子さん」
「別に、自分に敵意がある人から好かれたいとは、もう思わないけど」
「碧子さんって」
「でも、結局わたし……」
「碧子」
――あいつが正しくて、何も変わってないんじゃないかなって。
「ね、聞いて」
キスで塞いだりなんて、優しいことはしてくれなかった。
それどころか、強制的に顔を上げられ、固定されて。
「碧子さん、面白いよ? 」
真顔で、きっぱりそんなことを言われた。
「性格? 変わらなくていいじゃん。確かに碧子さん真面目だし、頑固だし、意地っ張りだし。それ、可愛げないって言うのかもしれないけど」
せめて、今は俯かせてよ。
さすがに、彼氏からこんな距離で可愛いくないなんて言われたら――……。
「可愛いんだもん。変わることないでしょう」
――いくら可愛くない私でも、きっと、睫毛くらい濡れてる。
「真面目だけど、変なとこめちゃくちゃだったり。不器用なくせに、器用そうなふりしてしれっとやっちゃうとことか。強がってばっかで聞いてくれないのに、そうやって泣きそうになるとことか。……変わんないでよ。俺、そういうとこも好きなんだよ」
瞼を撫でられ、反射的に目を瞑った。
とたんに濡れた指先を見て、「やっぱり」って言われてしまう。
「心身整えばね。メンタル強くなるのもあるんじゃない。そんな気がするだけのことも。でもそれって、性格が変わるわけじゃない。だって、碧子さんは碧子さん。あんな奴の為に、自分消すの嫌じゃない? ってか、俺が嫌だ」
そっか。
変わろう変わろうって、しなくていいんだ。
「何度も言ってる。SNSだって、別人がやってるんじゃない。映えとか全然気にもやる気もそもそもない、どーんって感じの料理の写真とかさ? あれ、どう見ても碧子さんじゃん。さっき作ってくれたのと一緒」
「……一応、一穂くん用の方がましのつもりなのに……」
消えなくていいんだ。
「碧子さんだなって思う。全然変わんないよ」
全然、は言い過ぎだと思うけど。
でも、つまらなくないって言ってくれて、きっと、つまんなくてもいいっても言ってくれて。
「……ありがと」
「ううん。だって、忘れてない? 俺が碧子さんを見つけられたってことは、そうだよ」
「……それは、ひとえに一穂くんの執着が」
「ん? 」
……すごいからでしかない。
でも。
「ありがと」
「……ん。っていうか、俺がいるからって、気遣わなくていいよ。美味しいし、碧子さん結構大雑把なの知ってるし、正直盛り付けの違い分かんな」
「うるさいな……! 」
ぼすっと一撃は笑って受けてくれたけど。
「それに。俺、ストーカーくらい見てたし。碧子さんが作り方とか載せてくれたやつは、俺も作れる。味は分かんないけど、たぶん見た目は勝ってる」
「……だよね」
両手を握って、掌に口づけて。
「だから、碧子さんでいなよ。……俺は受けとめられるから。あんな馬鹿と一緒にしないで」
「ごめん……」
そうだ。
一穂くんは、そう。
ちょっとあれこれ置いといて、私を否定したり蔑んだりしない。それどころか。
「うん。俺もごめん。嫉妬でしかない。俺が大人になれたらいいだけなのに」
「違う……! 」
そんなこと言ってくれるのに、必死で首を振った。
「一穂くんだって、そのままでいて」
「いいの? 」
(……う、えっと。いいけど、でも……よかったっけ? )
うっと詰まる私に笑って、額に優しいキス。
「話してくれてありがと。心配しなくても俺、狂いきってるくらい好きだから。……それ、嫌ってくらい、教えてあげる」
頭を撫でられるのが心地よくて、微睡むのは。
逃げかもしれない。
弱すぎるのかも、弱いのを装うあざとさかも。
「どっちもって言ったくせに、寝る? まったく」
ごめん。
あの時はそう思ったし、今もしたくないわけじゃないよ。
でも。
「おやすみ。……碧子。さっきスルーしたの、本当はすごい根に持ってるんだからね。次、覚悟して」
スルーなんかしてない。
ドキドキしすぎて、反応できなかっただけ。
――今みたいに。