隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)




「他には? 知りたいことない? 」


首を振ったのは、何もないからじゃない。


「言いたいことは? いいよ、何言っても」


胸の中をぐるぐる渦巻いてるのに、あまりにどろっとしすぎていて、声にするのを身体が拒んでるみたい。
それ全部吐き出していいよって言うように、頬を撫でられた。


「信じてるけど、不安。ごめん」

「すごい端折るね。んー、まあ、そうだよね。……そっか、俺のこと好きなんだ」


そっちこそ、かなり端折るというか、なんかいろいろすっ飛ばして直結したけど、でも、それは正しい。


「あとは? 」

「……あとは……」


好き。

他の人はどうだか分からないけど、私の場合はその言葉が綺麗なままではいてくれなかった。
ずっと二人きりでいるならまだしも、過去の関係ですらこんなに不安で、心細くて、ものすごく。


「こら。碧子さん。あとは……? 」


ぎゅっとくっつけば、もうバレてる。

――みにくい。


「なんで、そんな顔するの。俺は嬉しいよ? ヤキモチ焼いてくれて、そのせいでしたくなってるの可愛いし」

「……自分勝手な独占欲でしかないよ」


言葉にされてしまうと、そのとおりでしかなくて。
ますます顔を歪める私に、きょとんとした。


「だめなの? 嫌いでも、どうでもよくてもそんな感情芽生えないでしょう。好きだから、不安になる。だから、繋ぎ留めておきたくなる。……単純にムカついたから、優越感にも浸りたくなる」


かあっと熱が上がったのは、その全部今の私だから。


「嬉しいよ。……ものすごく本気で、好きって言われた気がする」


そのどこが悪いのか分からないって、困惑するのは優しい演技なのかな。
どちらにしても、喜んでくれてるのは本当みたいで、少し救われた。


「気がするじゃなくて、そうなんだけど」


そんなふうに言ってくれるなら、告白にしてみよう。


「さっきの全部……本当にそうだよ。不安になって、独り占めしたくて、されたくて、ムカついたから私」


――一穂くんに愛されてるって、感じていたい。


「それが、好きだからどうしようもないって。いい人ぶってそんなことないって気持ち抑え込んだりしないで、勝手な言い訳を自分で受け入れられたのも、ちゃんと言えたのも……初めて」


丸くなった目がすっと閉じて、すぐに開いた。
でも、その視線はどこか斜め上を向いていて、こっちを見てくれない。

正直に言い過ぎたかな。
こんなこと、やってることは彼女と然程変わらないかもしれない。


「……はぁ」


溜息が聞こえて、咄嗟に身体を離そうとすると、なぜかそこでびっくりした顔をして。
やがて原因に思い当たったのか、そっともう一度抱き寄せられた。


「……もう。碧子さんは」


溜息なんて、無意識だ。
だからこそ、きっと本心で――仕方な……。


「ないと思うけどさ。他の男に、そんなこと言わないでね」

「え……? 」


そんなつもりじゃないよ、って言われるんだと思ってた。
前の会話と全然繋がらない言葉に困惑する。


「初めて、くれたなんて。そんなの言われたら堪らなくなる……。これは俺が狂ってるからじゃなくて、男ならたぶん普通の感覚」

「は……」

「だから言わないで? 約束」


「お返事は? 」って催促されてもなお、意味が分からない。
焦れたように唇をなぞられ、どっかに行ってた視点がやっと合った。


「そ、そんな意味に誰も取らないよ」

「えー、そんなことないよ。初めてを奪われましたって言われたら、誰だって勘違いする」


(……そんなこと言ってない……)


でも。


「誰にも言わないよ。きっと、こんなこと一穂くんでしか起こらないから」

「嬉しいプレッシャー。……ん。いい人ぶったりしないで。苦しむくらいなら、悪女にでもなりなよ。俺はべた惚れなんだし」


私の告白なんて、可愛いものだった。
そう思わせてくれる為か、更にすごい告白をされた気分。


「だから、これだけは安心できないかな。俺が欲しいのは、元カノでもあんな女でもない。正直、碧子さんがさっき言ったことなんて可愛いもんだと思うけど。どんな醜い感情持ってたって、何ならそれ利用してでも俺は碧子さんを手に入れる」


――ね。俺さ。


「忘れない方がいいよ。俺、碧子さんに狂ってる」


――それ、安心材料にしてくれたらいいのに。





< 53 / 79 >

この作品をシェア

pagetop