隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
・・・
「ほら。こっち」
何が合図になったのか、よく分からない。
とにかく、始まりを感じ取ったら、そんなこと言われても直視なんかできなくなる。
「まだ照れるの? 碧子さんの方がよっぼどすごいこと言うし、してるけどね」
「そ、そんなこと……」
――ある、かもしれない。
「可愛い。好きな子が、自分のことで悪い子になってくの堪らない………」
(……だから、考え方)
一穂くんほどではないと主張したくはなるけど、すごいこと言ってしてる時もあるかもしれない。
「……そうだよ。責任取って」
いい人でいられない。
もともと、そんなにいい人でもないかもしれないけど。
それは、確かに悪い子だ。
「……碧子さん……」
こんな言葉を、どうしてそんなに喜べるんだろう。
重いだろうし、勝手すぎるし、いきなりそんなもの押しつけられたって困るのが普通じゃないかな。
「もちろん。……取れるよ、いくらでも」
そう言う彼の瞳は、甘く蕩けていて。
「……碧子さんにならね」
不要に耳元に唇を寄せて囁いたのは、安心させる為というより、瞳の色を完全に他へと変えていた。
「大胆」
一穂くんから必死で目を逸らして、彼の手を引っ張った。
スタスタと歩いて、少し乱暴に寝室に押し入ったのは、寧ろ恥ずかしくてその視線から逃げたかったからだ。
「そんなに焦らなくても、リビングで襲ったりしないよ? 碧子さんの希望じゃない限り」
「……どうして? 」
別に、リビングや会議室でされたいわけじゃない。
でも、急ぐほどでもないのかなって不安になる。
「場所なんて、どうでもいいとは言わないけど。でも、大切にしたいって……大切だって伝わってほしいって思うから。それが、その気になってところ構わず押し倒したいって欲に勝ってる。そこまで思えなくて、わざわざ怒らすのも面倒だから……のとは違うよ」
そう、教えてほしかったんだ。
「比べなよ」
(……ああ、私、最低だ)
「そんなことで安心して喜んでくれるなら、何度だって言ってあげるし、してあげる。碧子さんだけだって。だから……」
――比べて、気持ちよくなってよ。
微かに顎が下がったのを見て、いいこいいこと撫でられる。
こんな自分、過去一の最低さ。
聞きたかったことを言わせて、喜んで、ただ自分の幸せを追求してる。
「いろんな考え方があるかもだけどさ。恋愛にみんな幸せ、はないよ。少なくとも、俺にはね。だって、愛せるのは一人だから。俺を気に入ってくれる人がいるなら、そこには絶対多少なりとも傷つく人がいる。それが碧子さんがいるからだったって、そんなの自分勝手でも何でもない。ただ、俺に好かれてて……堕ちちゃっただけ」
「ほらね」――そう、落とされるのは服だ。
なのに、どこまで堕落しても許される気がして、気持ちが少し軽くなった。
「……優しいね」
正直者の善人ではないかもしれない。
「俺を好きでいてくれる碧子さんには。……だから、優しくなんてないよ」
それも、そうだとしても。
「優しい……」
「押し倒されて言わないで。ほんと困る……」
牽制でも何でもないのに。
どう進めようか思案するみたいに、ちょっとだけフリーズした後。
「……好きだよ。こんなことしたくなるの、碧子さんしかいないから」
次に触れた、どの唇も指も。
すべて、愛されてるとしか思えないほど優しかった。