隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)




本当にこの私に触れていくものは、どこまで甘く優しくなっていくんだろうか。
喉が鳴ったのを後から被せるように、すんと鼻を啜ったのが可愛くて、愛しかった。


「もう。また、笑う」


そんなところじゃないでしょう――不満を表して、意識を身体へ戻そうとそっと耳に噛みつかれた。


「おかしくて笑ったんじゃないよ」

「嘘だ。絶対子供扱いした」

「してないってば」


首筋で溜息を吐かれ、ぴくんとした瞬間をきっちり上目遣いで捉えてから、胸を掬う。


「可愛い声出してくれるのにな。仕方ないじゃん。何度したって、なるもんはなる。……なんだね。知らなかった。俺、確かにわんこかもしれない。裸の碧子さんの上にいたら、完全に動物に堕ちてる」


(根深いな……)


年下のコンプレックスは、なかなか薄れてくれないみたい。
年上女の方がずっと劣等感酷いって思ってたけど、彼は彼で悩んでるんだろうな。


「……嬉しかっただけ。その気になってくれてるのも、それ隠そうとした気持ちも。確かに可愛いと思ったけど、年下だからじゃない。そういうところ、好きだなって思ったから」


『大切にしたいって、伝わって』


その為に、一生懸命になってくれてるんだと思う。
それが愛しいって、可愛いって。
その感情の源泉は、私がかなり年上だからなんてことじゃない。


「伝わってるよ」


一穂くんの、そんなところが好きだ。


「可愛いとは思った。でも、そういう生理現象みたいなものに対してじゃなくて。気を遣ってくれたのが、可愛いなって思って。嫌だったらごめん」

「……え……、いや」

「……ごめん……」


(やっぱり、嫌か……)


そうだよね。
私がどんな気持ちで言おうと、年上から言われたって事実は変わらない。気をつけなくちゃ。


「や……って、違う。やじゃない……」

「え。……あ……っ……? 」


ねえ、手首を取られただけだよ。
どうして、そんな声が出るの。


「伝わってる? ほんと? ねえ、碧子さん。本当に……」


――俺のこと、好き?


「信じてなかったわけじゃないよ。でも、どうして……俺のどこを好きになってくれたんだろって不安だった」

「あ……」


『流されて』

『堕ちて』


その言葉に、私はどれほど甘えて守られてきたのか。


「好き」


そろりと。
手首から手の甲へと移動していく手は、まだ不安そうで。


「歪んでるけど。でも、私の気持ちに敏感で、すぐに察してくれて。甘えさせてくれるから、すごく救われてる。こんなに頼ってるのに、寄りかかってるのに。どうして、子供だなんて思うの? 」


首に緩く腕を回すと、慌ててベッドに両手をついた。


「……ごめん」


謝られて更に力が抜けた腕を、もう一度自分の首に掴まらせて。


「今日は、俺が碧子さんを慰めたかったのに。この可愛いいきもの、俺、潰しちゃうかも」

「……な、なに言って」


照れて解けかけた腕を許すことなく、意地悪モード突入時の目の色へと、少し変わって。


「俺のこと可愛いなんて言ったの、後悔するかもよ。俺は、碧子さんにしかこうならないんだから。諦めて、俺を好きでいて……俺に優しくさせてて」


名前を何度呼ばれたのか。


「大丈夫。俺はちゃんとここにいるでしょう」


この状態でそんな当たり前のことを言われて、どうして、ものすごくほっとしたのか。


「可愛いって、俺の台詞。何も分からなくなってるのに、キスしてほしいの? ほんっと可愛い」


そんな恥ずかしい言葉に、何度首を振ったのか。


「碧子さん」


――頷いたのか。


「あーおこ、さん」


その「くすっ」が、どんなに憎らしくて溜まらないのか。
何もかもオーバーして、分からなくなっちゃうくらい。


「……好き……」

「……ん。絶対裏切らないから。安心して」


彼女のことを思うと、不安は完全にはなくならないけど。
それでもぎゅっと緊張しきった後は、安心したのか一気に力が抜けてしまった。





< 55 / 79 >

この作品をシェア

pagetop