隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)






一穂side








「愛してる……。ねえ、聞いてる? 」

「……そんな耳元で言われたら、聞こえるよ」


終わった後も好きだ。
俺なんかに、そんなこと思わせてくれる碧子さんは女神。

呆れた顔、結構頑張ってつくりましたって感じも。
その後、くしゃっと笑ってくれるのも。
前には絶対見れなかった表情で、そんなの想像すらできなかった――いや、想像は幾度となくしたけど、あり得なすぎて諦めることすらできなかった。


(可愛くて可愛くて、可愛いから可愛い)


そんなに幸せそうに笑ってくれて、毎日毎日、俺の幸せをアップデートしてくれる。
これほど好きで好きで好きで、ましてや愛してくれる大切なひとを、他のやつが泣かせるなんて起こっていいわけなくね?


(……さー、やりますかね。ごめんね、碧子さん。会うね? でも、浮気じゃないから安心して)


「…………一穂くん? 」

「ん? なに。足りない? 碧子さんが好きなことで、何かしてなかったことあっ」


(あれも、これも、それも……した? うん、してる)


「……足りた。じゃなくて!! 今、ごまかしたでしょ」


(あ、足りたんだ。にしても、鋭いよね)


「やっぱり。なんか、よく分からないけどゾッとした」

「ゾクゾクした、でしょう。ひどい言い方」


乱れた髪を整えると、信用してないってジトッと見上げてくる。


「……無茶しないで」


細い指が前髪に触れた。


「……碧子さん」


ああ、そっか。
俺の髪も張り付いてたんだ。
そう気づかせてくれる、人差し指。
ほんのちょっと長めの爪が肌に当たらないように、そっと指の腹で掻き上げてくれるのが愛しい。


「しないよ。碧子さんが心配すること、何もないから」


なのにさ。
そうやって、小さな手や細い腕が顔の近くにあると――何度埋めたか覚えてないほどの胸に目がいって、さっきまでのことを思い出してしまう。


「私、へい……」

「こーら。甘えて寄っかかるんでしょう。……ね、碧子さん」


(平気なわけないじゃん。あの碧子さんがよ? あーんなに“一穂くん、一穂くん”ってさ。もうこっちの腰がどうかなるくらい、甘い声で呼ぶほど参ってるくせに。……とかね、教えてやんないけど)


あまりの可愛さに、頭も下も人間性破壊されるくらいキたとか言ったら、ムードも甘々も一瞬で消えるし。
もう見れなくなるの嫌だし。
そこは、お互いの為に言わないでおくべきだろう。


「大丈夫。悪いことは何も起きないよ。俺の異常さ、信じて」

「……分かってるから、心配なんですけど」


(ですよねー。でも、これ以上は教えてあげる気ない。ごめんね)


彼女には見せたくないから。
もとから異常さはバレてるし、まっとうな感覚を持ってないのも知られてるとしても。
だとしても、彼女には優しい俺であることを疑わせるようなことは見せられない。


「でも、一穂くんのことは信じてる。だから、何かやらかす気がして心配なんじゃない……」


(……あー、もう。下半身と脳の攻防半端なくなるから、事後のそれ、やめて)


「……言ったよね。俺、めちゃくちゃ自分勝手だよ。碧子さん手に入れる為なら、何だってした。これからも変わらない。なのに、碧子さんといれなくなるようなこと、すると思う? 」

「……それは……。そりゃ、その。ものすっごく善い人とは思わないけど」


(正直。最中も、そんだけ素直だったらあんな苛めなくていいのに……ま、だからそれも言わないけど)


「でも、優しくしてくれたいのは……伝わる。本当に、私……」

「ほーら、また。彼氏に平気とか言わないの。仕方ないな、碧子さんは。年下彼氏心配すると、またいじけちゃうよ? 」


――可愛い一穂くんに戻ってください、って。何度言われても、やめてあげられなくなるかも。


「……されたいの? 違う? ……うん。なら、我慢するのやめよっか。次、平気とか言ったら」


――ベッドにしかいられないくらい、小さくて柔らかい身体、抱き潰すからね。


「約束だからね。……いいこだから破んなよ」


もしかして、そういう寂しさもあるのかなって。
嫌われたくない、好かれたい、手に入れたい――そんな理由でこの言葉遣いだったけど、意識して囁やけば。


「びっくりした? かわい。怖くない怖くない」


ビクッとした瞬間茹で上がる彼女丸ごと、可愛くて愛しくて、少し怯えてこっちの出方を伺う様子に、どこに隠れてたんだかの雄の部分が曝け出される。


「はい。俺を煽るの、おしまいね。ほら、寝よ。疲れたでしょう」


(大好きだよ)


こんな脆くてやわやわで、でも、綺麗な身体。
ぐちゃぐちゃに抱き潰したいのに、でも守りたいとか包みたいとか、矛盾とすら言えないめちゃくちゃな気持ちにさせてくれるの。


「……おまえだけ」


おやすみのキスを待たずに、逃げるように眠ってしまった彼女の脳に、どうしたら刻んでやれるんだろう。







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