隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)




・・・




「一穂!! 」

「悪いな、呼び出して」


満面の笑顔がすごい。
眩しいというか強烈で、自然と目が細くなった。


「ううん。あの……彼女は大丈夫? 」


(……早く終わらせよ)


「行こ」


オフィス街にある公園は、昼時を過ぎるとまばらになる。
誰かに見られるとまた彼女が傷つくし。
かと言って、家に呼ぶのは絶対嫌だし。


「えっと……話したいことってなに? 話しにくいことなら、うちでも……」


周りに知り合いぽいやつがいないことを確認して、ベンチにすら座ることなく木陰に移動すると、木の幹に女の手首を押しつける。


「ここでいい。……あの子に、あれ以上のことした? 」

「あの子って……っていうか、痛っ……」

「彼女。今自分で言っただろ。この前デート中にわざわざお前が足止めさせた、あの子だよ。あれ以上のことしたの、してないの」


それほど強く打ちつけてはいないけど、ささくれ立った幹は痛いかもしれない。
少なくとも、俺は触ろうとは思わないけど。


「……っ、あの子って……おばさ……っ、だから痛いって……! 」


――それ、何か関係ある?


「……それ、言ったんだ。どこで? 」


さすがに毎日は泊まれないけど、一緒にいるようにしてたのに。
スーパー近くであっただけで、どうしたら遭遇できるんだろう。


「偶然……! 」

「へー」

「ほんとだってば! 郵便局に行ったら、たまたま……」


そういえば、今日おつかい頼まれてたっけ。


(……最悪)


タイミング悪い。
もっと早く、牽制しとけばよかった。


「それ、最後にしとけよ。じゃなきゃ、本気で許さない」


だから午前中、あんな笑顔してたんだ。


『碧子さん……? 』


すごく、笑ってた。


『え? ただいま』

『おかえり。……どうしたの? 』


明るくて爽やかで。


『郵便局、すごい混んでた。待ちくたびれちゃった』


――きっと、不自然なくらい綺麗に笑ってた。


「……っ、一体、どうしたの!? 一穂らしくない。……ごめん、私のせいだよね。私が浮気なんかしたから、そんな人が変わったみたいに。だって、一穂は優しい……」


『……優しいね』


(……違う。全然)


「優しくなんかないよ。言っただろ、全然謝ることない。俺がおまえに優しかったの、面倒だから優しくなって、笑って、どうでもよくて全部聞き流してただけだから」


優しさの素も。


「……は……?」


優しくなれない素も。


「好きだから優しくしたいのに、好きすぎて優しくできなくて、どうしようもなくて最低なことしてでも手に入れたいとか。俺、自分が狂ってるの、あの子に会って初めて気づいた。もう一回だけ、言う」


――おまえじゃないの。大概で分かってくれない?


「大切だって初めて思った子、これ以上傷つけたらこんなもんじゃ済ませない」

「初めてって、そんなの……」

「まだ分かんないの」


(……ねえ、碧子さん。俺がとち狂うの、碧子さんだけ。でも、優しくしたいのも、優しくできるかもしれないのも……必死で努力してるのも、碧子さんだけなんだよ)


「でも、あの子にあんな顔させるなら。奇跡だって思ってた、彼女と付き合えたことぶち壊すなら。もう“どうでもいい”じゃなくなる。思いついたエグいこと、片っ端からやってくつもりだけど、どうする? それか」


――平和的解決。大人しく、他の男のところ行けよ。


「幸せになったら? 」


(ごめんね、碧子さん。もう二度と)


――あんな笑い方、絶対させない。







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