隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
「愛してる。どろどろして、見せたくないくらい。幻想なんて、綺麗なものにしてしまえたらよかったくらい」
――恥ずかしく成り下がるくらい、愛してる。
「……碧子さんが成り下がったんじゃない。堕としたの、俺だよ。言ったでしょう。どろどろでも、汚れてても、俺は可愛いくて可愛いくて堪らない。こんな可愛いいきものが、俺で汚れちゃうなんて堪らなく幸せ」
(……私も)
世間はおかしいと言うだろう。
違うって、頭ごなしに否定するだろう。
ううん、そんなことすら言ってくれなくて、ただのバカップルにしか見えずに雑踏に埋もれるだけかも。だとしても。
――愛してるって、もう何度目か分からないほど言われた。
「愛してる。俺、我慢してるんだよ? 強くて格好いい碧子さんは、俺の憧れで今も大好きだけど。同時にさ、そう思えば思うほど」
髪を、耳に掛けられたのは。
隠してたはずなのに、掻き上げたのはそっちのくせして、無防備だよって知らされたのは。
「ちっちゃくて可愛いくて、柔らかくて……この可愛いくて可愛いくて綺麗な子が、俺の前では本当にただの可愛い子になってぐずぐずに堕ちちゃえって思ってんだよ」
今から洗脳するよって、囁きの合図。
「ご褒美、嬉しかった。だから俺も、碧子さんにあげななきゃね」
囁いた後、流し込んだことばが逃げていかないように蓋をするみたいに。
しっとりと這う舌が、少しだけ荒くなった口調を理解させようとする。
「凛とした大人の碧子さんなんて、いなくなっちゃえ。もっと悪くて、汚れて、俺にしか見せれない姿でいてよ。……っていうか。ほーら、碧子さん。もっとそんなとこ見せて? 」
既になってる。
それをどう言っていいのか困惑する私に焦れたのか、それともそんなの承知で、更に堕とそうと言うのか。
「……なれよ、ほら」
乱暴な言い方にびくっとした背中を、優しく撫でた。
「ごめんね。ヤッてないのに、意地悪して。可愛いすぎて、ゾクゾクしちゃった。……愛してるって、頭おかしくなるくらい嬉しい。……俺も、本当にあいしてる……」
その手に支えられて、寄せられて、固定され――唇が震えることもできないくらい、愛される。
こんな私を、彼以外の誰に見せれるだろう。
可愛いなんて思うのはきっと一穂くんだけで、自分や他人が見れたとしたら、あまりにみっともなくぐちゃぐちゃで、軽蔑してしまうかも。
(……ううん)
そもそも、こんな私は彼の腕のなかでしか、存在し得ないというのに。
柔らかなソファすら広く、冷たい。
もっと硬くて、骨や皮膚に触れて、温かいものに頬を寄せて。
安心なんて心地よく不安定な脆さに、今まで他の人には感じたことがないくらい、ほっとしていたい。
だから、一穂くんだって。
「……なってる……」
思惑どおりにくたくたの私が、キスの合間にもし見えたとしたら。
――安心して、そう、なってて。