隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
・・・
「お疲れさまです」
自販機の前、ただの挨拶で驚かせてしまったことも。
「……お疲れさまです。もう、俺のこと避けなくていいんですか? せっかく、ウォーターサーバーの辺り、通らないであげたのに」
その後すぐに、そんな複雑な表情をさせてしまったのも。
「知ってます。そんな必要なくなったって、言いに来たんですよね」
辛いなんて、私が思えることじゃない。
「……はい」
意識して大郷さんのチーム付近を通らないようにしてたし、もともと他部署とそこまで関わる業務じゃないから、そうなるとほぼ会うことはなかった。
なのに、今わざわざこんな時だけ姿を現して、何を否定できるだろう。
「そこ、肯定します? ……面白いな、浪川さんは。俺だって少しくらいは知ってたのに……動かなかった俺が負けなんですけどね」
笑ってくれて、心を軽くしてくれた優しさに感謝したのも束の間、意外なことを言われて今度は私がびっくりしてしまう。
「……本当なんですよ。戸田くんが入社して、浪川さんの雰囲気が変わる前から。俺、何となく知ってたんです。でも、その時はまだ話しかけづらくて」
「……すみませ」
「謝らないでください。それってつまり、ガード崩せなかったのは俺だってことですし。素の浪川さん引き出したのが戸田くんだってことは、変わらないから」
「……そうですね」
「ごめんなさい」も「そんなことないですよ」も、違うから。
そう言うしかないと思ったのに、そこでもやっぱり笑われてしまった。
「だからって、そこも認めるんですね。あーあ……でも、もし、戸田くんがきつくなったら教えてくださいね。そんなことがあった時……俺も空いてたらいいな」
「……きっと、そんなことないですよ」
一穂くんが嫌になることも。
大郷さんが今後、ずっとひとりでいることも。
「……酷いな、もう。でも、ありがとうございます」
きっと、ないから。
(……ありがとうございました)
私を見てくれて、見ようとしてくれて。
自分すら両目を覆って、見えないふりをしてたのを見つけてくれて。
「……お疲れさまです、浪川さん」
「……大郷さんも。お疲れさまです」
傍から見ると、おかしな会話。
でも、それで全部、お互いに理解したんだと思う。
――ごめんなさいは、言えないのなら。
「早く行ったほうがいいですよ。さすがに今日は、あのわんこ見たくないんで。……わんこだと思ってたんだけどな。結構しっかり成長した狼だったみたいですね。失敗した」
「……な、なに言ってるんですか……」
(大郷さんがそう思うくらい……? )
可愛いだけの仔犬なんていない。
狼さんなんて言うのも可愛いくらい、知能犯のくせして肉食で、かと思えば私の為だけにわんこになりきる時もある。
そんな、歪みきった愛しいいきものだ。