隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
疲れてた。
無理してた。
それが言い訳にならないことすら、理解してた。
『おまえさ。忙しいの分かるけど、あんまり放っとくと可哀想だぞ。愛想尽かされて、誰かに奪われるかも』
『お好きにどーぞ』
もちろん、同期で入社当時から仲のいいこいつに言われることも分かってた。
それどころか、それに対する返事も本心で、とどのつまり俺は告白されて何となく付き合っただけで、愛情なんて特別な感情はなかったのと――おまけに、俺はそんなクズだったってことだ。
だから、実際浮気されても「そうだよな」としか思えなかったし、何ならそんなの浮気にカウントしなくてもいいんじゃないの、って意見で。
構ってあげられない俺が悪いし、直そうとも思えない時点で終わってる。
これを彼氏だと呼ぶ方が可哀想で、彼氏彼女の関係なんて始まってたどうかも怪しい。
きっと、お互い気の迷いというか、大人どうしの「何となく」が一致してただけにすぎない。
そう、だから、なのに。
『……っ、ごめん……!! 』
馬鹿正直な浮気相手から懺悔されて、何をどう怒っていいのかよく分からないくらい、衝撃だった。
『殴らないの? 』
『は? なんで? 何の為に』
それが、裏切りだと。
そう受け取ってしまったのは、恋愛じゃなく友情の方だったことも。
『生憎、そこまでの執着、俺にはないよ。言ったとおり、あいつには好きにしてもらって構わない。そんな男といたって、何のメリットもないだろ。寧ろ、よかったんじゃないの』
何に苛ついて、何に落ち込んでるんだか。
こんな最低な男に、そんな権利ないだろうに。
『……でも、相手がおまえだったのは、意外とびっくりしてる。何度も忠告してくれてたもんな。そんな兆候に気がつかないくらい見えてなくて……信用してた。わざわざ、おまえがスッキリする為なんかで殴ってやらないよ。大方、むこうから言い寄られたんだろうなって察しつくし』
女の顔は正面から見れるし、普通に挨拶もできた。
なのに、こいつのことはしばらく顔も見たくもない。
『一穂……』
それから、すぐに会社を辞めた。
大抜擢とも言われた、参加したばかりのプロジェクトの途中、迷惑極まりない退職かとも思ったけど。
世の中、人間ひとりいなくても回るものだ。
地球、世界、日本ですらそうなのに、一企業のとある部署の、始まったばっかのプロジェクトなら余計。
案外、すんなりと受理されたのだった。
(必要にしてなかったんだから、必要とされなくて当然か)
あいつらが上手く……いかないほうがいいんだろう。
同期で親友なの知ってて、誘うってどうよ。
一番悪いのは俺だけど。
(これに懲りて、人がいいのも良し悪しだって気づけよ)
――もう、会うこともないだろうけど。