隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
そんなこんなで。
もともと自炊の習慣もないうえに、忙しかったのを理由に、更に自棄になる出来事があった俺は、不摂生が過ぎて。
仕事辞めといてよかったと思えるほど、健康も体型も損なったわけだ。
碧子さんに出会ったのは――一方的にだって分かる脳はまだ残ってる――そんな時。
(あー、ジムな。宅トレ……いや、その前にまともなもん食えって話。違うわ、最優先事項としてまず働け)
一日のほとんどを、スマホ片手にベッドでごろごろしてる時点でそれひとつもやる気なし。
それでもゲームやニュースを見るのも飽きてくると、一応は気にしているらしく、検索履歴もそれっぽいので埋まってきた。
(ん……)
目に飛び込んできたのは、よくあるビフォーアフターの写真。
そんなの初めて見たのでもないのに、なぜかすごく目が惹かれて、しばらく停止してた。
鍛えられた身体を、純粋に綺麗だと思った。
そこまでくるのに、ものすごく努力したんだろうなって尊敬した。
食事の写真は、正直すごく美味しそうに見えるかって言われると疑問もあるけど、そこも何だか好感をもてた。
『帰り遅くなって急いだら、失敗したー!! でも、食べれば一緒!! 』
「ぷっ……」
(え、昨日の成功? した写真との違い分かんね)
だったら、載せなきゃいいのに。
そう思ったのも本当だけど、でも――もしかしたら、そこがいいのかも。
会ったことも見たことも、実際どんな姿かも分からない人なのに。
妙な親近感と、実を言えばちょっとおバカに見える抜けてるっぽいところと。
根が真面目なんだろうなって、ストイックな面のバランスに謎にほっとしてる自分がいた。
つまり俺は、ずーっと遡って眺めてたってこと。
彼女がダイエット始めたところから、最新の投稿まで。
その間、軽すぎるプロフィールも何度か見てみたりして。
「……馬鹿……? 」
暇にも程があるだろ。
こんな、誰とも知れない、ありふれたものを延々見たりして、何の情報収集してんだ、俺は。
――でも。
『今日もきつかったー!!? お疲れさまでした』
(……お疲れさまでした? )
いや、俺は何もしてないけど。
でも。
(……きっつかった)
家で寝てるだけでしんどい。
だけな自分がしんどい。
それを分かって――分かろうとしてくれる人がいたのを見つけたみたいで救われてる自分が。
(……やばすぎ……)
こんなの、本人何とも思ってない。
それか、意識しすぎて、あざとくもなり得ない一行。
それすら、この世界にはどこにでも落ちてる。
「でも」、彼女しか見れなくなるまでにどんだけ経った?
(……あたま、やば)
そう、初めて気づいた始まりの日。
事態はこの時自分で思った以上に深刻で――つまり、実際のイカれ具合は、そんなものじゃ収まらなかったのだ。