隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
(……なんか、今日元気なかった……? )
あの短い文章で、一体彼女の何を知れるだろう。
そんな至極まともなことを思いつける脳は残っているのと同時に、「何も知れるわけない」と理解できて、落ち込む感情をより膨張させていた。
何があったんだろう――そう思うことすら、無意味だって分かってる。
何があったも何も、彼女はダイエット関連以外のことはほとんど見せてなかったから。
プライベート、なんて言葉すら当てはまらない。
なのに――……。
(……やっぱ、絶対元気なかった)
そう確信して、居ても立っても居られなくなる。
百歩譲ってそうだとして、どこへ行ってどうすればいい?
日本のどこか――にすら、彼女が存在してるって断言できない。
実在の人物だって、逆に架空の方があり得ないってするっと思えないのは。
もしも本当に彼女が落ち込んでいたとして、彼女は俺の助けなんか必要としてくれなくて。
それどころか、俺の方こそ存在を認識してもらえてなくて。
あんなに綺麗な大人のお姉さんに、慰めてくれる男がいないはずない――そんな当たり前のことくらい、ちゃんと分かってるから。
「……はいはい。だとしても、どうしようもないって」
いや、存在してるかどうかなんて、どうやって確かめられる?
ただ投稿されてるものを見て。
それが真実だと信じて受け入れて、疑うなんて発想もなくて。
新しく上がってるのを確認して、ああ、生きてるんだってほっとする。
(……変態じゃん。ストーカーまであと半歩な感じ……)
だった、のが。
何の悪戯か、偶然か、運命か。俺は。
――もう半歩、詰めてしまった。
・・・
その時の感覚を、どう言えばいいのか。
古臭くて陳腐だけど、それは確かに雷に打たれたような衝撃だった。
それもそうだろう。
ずっと憧れて、リアルだとは思えない、寧ろ空想や妄想に近い勝手な愛情を抱いていた存在が幻じゃなかったと――この目で見てしまったんだから。
どうにか外出する気になった、久しぶりのその日。
たった一日目で、彼女を――碧子さんを見つけるだなんて。
(……まさか。第一、全然雰囲気違う)
ブラウス、無地のスカート。
結んだ髪。
一分一秒も惜しいって感じで、首から提げたセキュリティカードをひったくるように外す仕草。
少し髪に引っ掛かったのか、苛立たしそうに眉を寄せて首を振って――首筋や鎖骨へと目を誘導する。
(……な、わけないだろ)
ボタンを外したんじゃない。
ジャケットなんて、もともと着てない。
今、どこも何も開けたんじゃないのに。
見覚えのあるホクロに目が奪われて――ごくんと喉がなって、俺は諦めた。
ストーカー、変質者。
この状態の自分を表現できるのは、そんな最低な言葉しかもうなくなってきている。
――あの時、既に俺は、碧子さんに。
(……欲情してる)
始まってもないのに、終わってるのを感じて自嘲する他にどうしたらいい?