隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
碧子さんは可愛いかった。
想像よりも、写真から妄想するよりもずっと綺麗で、すごく可愛い。
けして泣かないように食いしばってるのも、頑なにキスを拒もうとするのも辛いけど。
心も体も辛いのは碧子さんの方だ――こんな酷いことをしながら、当たり前のことを思えるくらい勝手な愛情が悲しい。
「碧子さん……」
(……怪物でも見たみたいな顔)
恐怖よりも怒りよりも、「どうしてこんなことするのか分からない」という信じられないものを見たような顔に、いっそうズキッと胸が痛む。
碧子さんにとって俺は、モンスターみたいなもんなんだろうな。
遊びなら。
何となくなら。
名前なんて呼ばなくていい。
キスなんてしなくていい。
寧ろ、そう思っていたいから、キスはしないでほしい――……。
きっと、そういうこと。
身体だけじゃなくなる行為は、精神を保つ為に排除したいって。
快楽が強くなるほど、限界が近づくほど。
それが伝わってきて、苦しくて堪らない。
じゃあ、我慢できたのか。
通行人Bのままで、どうにか可愛い後輩くらいになる努力を時間をかけて続けられたのか。
「碧子さ……」
「や、だ……」
重なっているのに、触れるのを拒まれて。
誰だか他部署の男が、彼女をチラチラ見てたのが脳裏を過ぎる。
――やっぱり、無理だ。
きっと、俺にはこれ以上我慢なんてできなかった。
「……ごめん」
キスしたりして。
髪を撫でたりして。
「碧子さん、ごめん……」
好きだなんて言って。
言わずにはいられなくて。
――俺なんかが、好きになってごめん。
もう、彼女の耳には届いてなかったけど。
(好き……好きなんだよ。本当に)
拭うのを諦めて、流れきれずに目の端に残った涙に触れる。
全部俺が拭いてあげたいと心から思うのに、その原因が俺だなんて。
彼女に好かれたいって気持ちはますます大きくなるにつれ、嫉妬して焦って、嫌われるどころか恨まれることして。
強制的に受け入れさせられることが、どれだけ屈辱的か想像することくらいはできるくせに。
(好き。好き、すき、すき……)
伝わって。
この気持ちのほんの僅かでもいいから、好きなんだって、大切なんだって。
傷つけたいんじゃない。
苦痛を与えたいんじゃない。
どうしたら気持ちよくなってくれるのか、早く早く知りたいと思う。
ずっとキスしてたいし、どんな酷い顔されたって見ていたい。
力が抜けた頃まで待って、その細い指に絡めるのは卑怯だと知りつつ、繋いでいたい。
(……こう、なるんだ)
指の細さが。
もっとずっと熱いことをさっきからやってるっていうのに、初めて触れたみたいな柔らかな指の腹から伝わる体温が愛しい。
(……本当にごめんね)
めちゃくちゃ、ぐちゃぐちゃに。
「愛して……」
――しまって。