隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
・・・
そうっと、そうっと。
あまりにそっとを意識しすぎて、指が震えてるのが伝わる。
俺の髪、やっぱ神経あるんじゃないかな。
そんな乙女みたいなことを考えて、笑わないように我慢した。
遠慮がちに撫でられたり、その指にくるっと絡むくせっ毛すら、彼女に執着してるみたい。
髪触るの、好きなのかな。
心地よく微睡みながらそう思うのは、純粋な愛情からだったのに。
そういえば、さっき抱きしめられた時もそうだったけ……そっちを思い出してしまえば、碧子さんが寝てしまう前のことが一気に蘇ってしまう。
「一穂くん……」
どうかしたのかな。
起こそうか起こすまいか、小声で呼んでくれても目が開かなかったのは。
「……ん……」
もっとぺたっとくっついてもいいのに、肌が触れないように屈んでキスしてくれようとする気配を感じたから。
(……待てない)
後頭部に腕を回して、もうほんのすぐそこにあった彼女の唇を奪う。
そっと、そっと。
真ん丸の目をぼんやり見ながら、今はただ、重ねて。
「……お、起きてたんだ」
「うとうとしてた。せっかく碧子さんからキスしてくれそうになってたから、目開かなくて」
「か、屈んだだけ。したの、一穂くんだし」
あとほんのちょっと、我慢できなかった。
でも、そう言われてしまうと悲しいかも、
「え、そう? 碧子さんからじゃない。あんな可愛いキス」
もう一回、俺からだって言い張ろうか、でも、キスしかけたのは自分だし……で迷って、むっとしてるの可愛い。
「……っ」
「はいはい。今のは、完全に俺から」
まだ素肌のままでいてくれた、彼女の肩をブランケットで覆って、もう一度。
今度は、唇が離れるとすぐにくっついてきた。
「ん? なーに」
嬉しくてつい抱きしめたけど、何か言いにくそうに上目でこっちを窺ってるのを見て腕を緩める。
「……その。なんか、怖い夢でも見てた? 」
(……え)
「ごめん。違ったら、その方がいいの」
ぽかんとしてたのを誤解したのか、碧子さんは謝ってくれたけど。
「……あ……」
(……まさか俺、泣きそうだった? )
彼女の寝顔を見てたら、うつらうつら。
夢と現実を思考が行き来して、あの頃のことを思い出してたらしい。
(……うわ、恥ずかしい……)
彼女に嫌われてた頃を思い出して、泣くとか。
勝手だとしても、俺にとっては辛かったけど。
「……ううん。すごく、幸せな夢だったよ」
碧子さんって人を知れて。
「すごくすごく……幸せ」
こうして出逢えて。
「幸せすぎて、切なかったのかも」
――好きになってもらえたから。