隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
「……ごめんね」
バレバレ。
泣きそうになるのを我慢したのは碧子さんの方で、くしゃっと顔を歪ませたのが愛しい。
歪んだ顔も、その優しさも。
「どうして、碧子さんが謝るの。あんなことができる、こんな俺を好きになってくれて感謝しかないよ」
「……ばか」
首に腕を回されて。
耳の側にある唇から、そんなこと囁かれて。
甘えるようにくっつかれて密着した柔らかさに、興奮よりもこの雰囲気を壊したくないって気持ちになれる。
「幸せすぎて、胸が痛い。呼吸困難になるくらい、嬉しい。こんな気持ちを教えてくれて」
――それは、碧子さんだから。
「ありがとう」
「……ばか……」
鼻先が一瞬、首筋に触れて。
こつんと、額が肩に当たる。
「私だって、一穂くんに救われたよ。何度も」
「え? ……そっか」
否定せずにすぐそう答えたのが嘘くさかったらしく、緩く耳を引っ張られた。
「いたっ……痛いってば。どうせなら、キスがいい……」
「作った部分も、願望でできたところも。変わりたくても上手くいかなくて辛かったものも。私だって言ってくれて、嬉しかった。自分で大嫌いだった面も好きになってくれて、すごく救われた」
耳が赤くなったのは。
「私も同じこと思ってる。一穂くんが、もしかしたら自分で受け容れきれないところも、一穂くんだって思う。もしも、私だから隠しておきたいところがあったとしても……実は私、好きになれてるんだよ」
「そ、んな……隠し事なんてない……」
つねられたからじゃなくて。
動揺したからでもなくて。
「……うん」
くすっと――でも、少し寂しそうに笑われて、「まさか」が頭に浮かんだ瞬間、確信に変わって。
「碧子さ……、え……本当に? 嘘、でしょう」
(……さすがにそんなことって。それで側にいてくれるなんて、あり得んの。……まじ、か)
「……ん……」
曖昧な返事。
俺の背中に触れて、身体を寄せて。
その表情を読めないのも。
何も覚えてないふりして、今まで笑ってここにいてくれたのも。
全部、全部。
「……え……。いつ、から……」
(……俺のため……? )
――あの日、ぶつかったのが俺だったのを気づいてて、知らないふり、してくれてたんだ。
さっきだって、俺がどっちの反応してもいいように選ばせてくれてたの。
「そうは言っても、付き合ってからなんだけどね。そういえば、あれ一穂くんだったなーって」
「だったなー、じゃないよ。普通に気持ち悪かったでしょう」
「あ、ってことは、やっぱり情報収集だったんだ」
(……う)
そこは肯定するしかない。
隠すつもりも、隠せるわけもないし。
でも、なんで――……。
「……笑うとこ? 」
「照れてるの可愛い」
「……碧子さん、俺のせいでどうかしちゃったよね」
はぐらかしたりしないで、認めてよかった。
顔、上げてくれて。
細い指が頬を包んでくれて。
普通の人はドン引きすることなのに、そんなふうに笑ってくれるなら。