隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)
(……そのうえ、可愛くないキス、やばい……)
いや、可愛いんだけど。
全然、激しくなんてないけど。
如何せん、思った以上の愛情を受けてたと知った俺は、頭クラクラしてるし。
そもそもあの後、抑えて抑えて押し込んで、あれこれどうにか滅したわけですよ?
「あの一穂くんも好きだよ」
「嘘だ。ってか、ダサいから忘れて」
「ダサくなんてないから、無理」
その笑顔は無邪気なのに、どうしてこんなに色っぽいんだろ。
(理性が負ける……)
「だから、無理する必要全然ないから」
言いたいことを先に言われてしまった。
それがすんでのところで、キスや背中に触れた指先に煽られた部分を引き戻そうとする。
「それ、俺の台詞。俺といるせいで、頑張りすぎたりしないで。他の男の視線感じるたびに、碧子さんがもっとふにふにのしわしわになれって呪いかけたくなる」
「やめなさい、即刻。気にしてるのに……冗談にならな……」
見るのが、俺だけだったらいいのに。
それって、結構ノーマルな嫉妬じゃない?
「冗談じゃない。わりとしっかり本気。……それ以上、綺麗になられたら困るって言ってんの」
頬を包み返すと、子供みたいに嫌々して。
ほっぺたは可愛いし、逃げながらも上目で見てくるのは年上の女の人っていうよりは、大好きな恋人のくせに。
「……や……」
その顔も、揺れる髪に誘われて目に入った首筋も色気しか感じられなくなるの、どうしてくれるの。
「本当に感謝してるんだよ。俺に優しくさせてくれて。碧子さんに、優しくする権利もらえて幸せ。そんな、ものすごく当たり前の感情をもてること、壊したくないんだ。だから、俺を狂わせないで」
「だ……から、そんなこと思う必要ないのに」
「それも、そのまま返す」
(ねえ、もっと可愛いキスして。もっと、俺に余裕を頂戴)
本心だけど、大嘘。
どんだけ初で可愛いくたって。
たとえ、本当に碧子さんがふにふにだったって。
この焦る気持ちも、衝動も、まだ狂えるのかという異常な愛情も、きっと、ちっとも減らない。
「大好きだよ。寸前で寝ちゃったのを、愛しいって思えるくらい」
「……う、そ、それはその」
「その? 」
半眼でじとっと至近距離で見られて、すごく痛いところ突かれたって顔。
それこそ、まったく気にすることないのに。
「……ごめんなさい。でも、だから。つまんなかったとかじゃなくて……!! 体力が追いつかなかっただけ……」
「都合よく、年の差利用しないの。それこそ、鍛えてるでしょう」
「筋トレとそれは消耗の仕方が別も……っ、と、とにかく、一緒にしないで。わ、私だって、ショックだったもん……」
(筋トレと比較してるの自分じゃん。なにその大混乱、可愛)
「……一穂くん!! 」
堪えきれずぷっと笑うと、そうやって拗ねるところ、好き。
「うーそ。謝るの、俺の方だよ。疲れさせちゃってごめん。好き、好き……って。延々そんなこと言いながら、全然止まる気配なかったら、断りにくいよね。ごめん」
「そ、それも、その。一穂くん、そういう時、聞く耳持ってなさそうだけど」
(……だよね。ごめん、いつまでもがっついて。だから、若いって思われ……)
「で、でも。……嬉しかったから、拒まなかっただけ。だ、だから。ついてけなかったの、ショックだった」
そんなことで悲しそうにして、思考能力が低下してた頭をガンッてすごい音立ててぶん殴られる。
「それ、歳のせいじゃないって。碧子さんが年上だからでも、俺が年下だからでもない。今週忙しかったし。碧子さんは疲れが溜まってて、俺は別のが溜まってたの」
「……そうかな」
「別物、なんでしょう。……ったく、いちいち意味分かんないくらい可愛いよね」
「そっちこそ、意味分かんないよ」
(はー……。何か癒やされたし、報われた。だから、おしまい)
額に口づけると、なぜか複雑そうな顔して。
「……あの。気のせいにした方がいい? 」
居心地悪そうにモゾモゾして、真剣に聞いてくるとか反則。
(……の、つもりだったのに。もー、碧子さんは)
「碧子さんは、どっちがいいの」
「……っ」
何とか真顔で切り返すと、真っ赤になって。
パクパクしかけた唇を塞ぐ。
「教えて? 」
わざとらしいモード変換に、きゅっと掴まってきたのを勝手に合図と受け取って、もう一度繰り返して。
「優しくさせてくれて、ありがと」
――プラス。
「……意地悪もさせてね」
「〜〜っ、もうずっとしてる……!! 」
あわあわとこっちに向いた背中の、無防備なこと。
トン、と軽く押すと、構えていた腕にころんと落ちてきてくれる彼女を。
(でも、やっぱり、甘やかしたい方が大きいんだけどね)
――それはあとほんの数分、秘密。
【隠れSだって、優しくしたい!!(……らしい)・おわり】