愛たい夜に抱きしめて
「……お話中失礼します。お荷物がそれだけでしたら、僕が荷物持ちになりましょう。もともとこちらの不手際ですので、新居への交通費や引っ越し代なども負担するつもりでしたし」
「え、あっ、と……」
さっきから感じていたけど、檪紫昏くん、同年代とは思えないほど、敬語ができている。
使いこなしている感が半端ないし、なにより敬語でおかしいところがひとつもない。
わたしも以前そうだったから、おかしいところがあればなんとなくわかるんだけど、紫昏くんに違和感は微塵も感じない。
それだけで、どれだけ敬語を使いこなしているのかは、大体わかる。
『あら、紫昏くんが手伝ってくれるの?澄良ちゃん、そうしてもらったら?紫昏くんは頼もしいから安心できるわ』
北見さんのそんな助言もあり、断るに断れなくなってしまい。
「……えっと、なら、ご厚意に甘えさせてもらうね。よろしくお願いします」
乃坂澄良、本日付けで引っ越しすることが決まりました。