愛たい夜に抱きしめて
誘惑なるソワレ
꙳☄︎
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「……乃坂さん、本当にこれだけでいいんですか?」
「うん。持っていくものは、これ以上ここに置いてないから」
小さい段ボールをひとつ抱えた檪……おほん、紫昏くんは、目を丸くしている。
学校でときどき見かける姿は、ほとんどニコニコ笑顔だったから、すこし新鮮。
あの呼び出し、のような拉致事件から、数日経った、土曜日の今日。
紫昏くんの都合もいいみたいだったので、臨時で住む住居への引っ越しを手伝ってもらっていた。
……と言っても、前日までに必要なものは段ボールの中へと詰めていて、紫昏くんがすることはほとんどない。
段ボールの中身も、勉強道具や服だったり軽いものしかないので、十分わたしひとりでも持てる重さなのだけど、紫昏くんは断固として譲ってくれなかった。
「タクシーまで手配してくれて、ほんとにありがとう」
「いえ。それが僕の役目ですので」
相変わらずな、完璧なまでの敬語男子。