愛たい夜に抱きしめて
無造作に整えられた黒髪はツヤツヤしていて、その髪の隙間から覗く瞳は、まるですべてを見透かしているかのような透明感のあるアイボリー色をしている。
それらが絶妙なバランスで、顔の造形美として成り立っていることがすごい。
「乃坂さん、お先にどうぞ」
「あ、はい、ありが……、あの、ごめんなさい。すこし待っていてもらってもいいですか?」
タクシーに乗り込もうとした直前。
大事なことを思い出して、くるりと方向転換。
いきなりのことで驚いたと思うのに、紫昏くんはすこし目をぱちくりしただけで、瞬きをした刹那の間に、笑顔へと戻っていた。
「はい、もちろんです。では僕はこれをトランクに積んでおきますね」
「ありがとうございます」
ぺこりと軽くお辞儀をして、アパートの一階に設置された各部屋のポストへと向かう。
その中の、大家さんの住まいでもある101号室のポストへ、小さな菓子折りと、一通の封筒を投函した。