愛たい夜に抱きしめて
それはあまりにも小さな声で、聞き漏らさなかったのは、いまここが無人地帯で、なおかつド深夜真っ只中という環境のおかげだろう。
「教えてくれてありがとうございます。それじゃあ呼びますね」
「…………や、呼ばなくていい」
「え?……でも、いまここで見捨てたら、わたしたぶん来世にいけないので」
「………???」
黙っているにも関わらず、何言ってんのコイツ、という副音声はしっかり聞き取れた。
「……ならもう一旦見なかったことにしてもいいですか?」
「それはちょっと薄情がすぎる」
……なんて。冗談はここまでにしたほうがよさそう。や、実は半分ほど本気だったりはするんだけど。
「……わかりました。とりあえず立てますか?」
「…………、」
「無理なんですね了解です。じゃあ、ちょっとここで待っててください」
本当に、たまたま、グーゼン、ちょっとした出来心だった。
近くにあったコンビニで絆創膏や包帯、ガーゼ、消毒液等を買って手当したのち、タクシーを捕まえて彼の家まで送り届けてもらったのなんて。