愛たい夜に抱きしめて
氷昏は、紫昏くんの黒い爪のことを、何も言わない。
かわりに、と言うべきか。
紫昏くんは、氷昏の深夜徘徊のことを特に追及もしない。
─────この兄弟は、どこか歪だ。
「氷昏、わたしのこと都合のいい枕だと思ってる?」
「……もちはこべる楽なマクラだとは思ってる……」
「わたしの膝は残念ながら枕の用途はないんだけどな……」
そして、食事をご馳走してもらったあと、こうやって一定時間氷昏の枕になることがお決まりになっている今日この頃。
最初は土下座しそうな勢いで青ざめていた紫昏くんだけど、わたしが諦めると同時に、紫昏くんも諦めたご様子で。
今では念のため一声かけるだけで、ほぼ放置している。
氷昏の総睡眠時間、一体どれくらいになってるんだろう……。
わたしが夕ご飯お邪魔する頃にのそのそ起きて来て、食べ終わったらまた少し寝るというなんとも不規則な生活を送っている。